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冬風
街の喧騒が嘘のように遠く聞こえるここは、昼間ならサラリーマンやOLがたむろする小さな公園だ。
CRIMEのコンサートの帰り道。
北からやってくる3月の冷たい夜風は、オレと隣を行く未紅の火照った体を急激に覚ましてくれる。
「ねぇ、ユウ?」
「ん?」
柔らかな声に、視線を横に。
「来年も、また来ようね」
「そうだな」
当たり前な質問に、当たり前のように答える。
それに満足したのか、未紅は嬉しそうに微笑んだ。
「ところで、ユウ?」
「ん? なんだ未紅?」
「どうしてホワイトデーは『三倍返し』とかあるのかな?」
「チョコに見合わない物をお返しにあげるから、じゃないのか?」
「じゃ、別に三倍じゃなくてもいいのね。それ以上でも?」
「そういうことだな」
ユウは小さく頷くと、懐から小さなかけらを3つほど取り出した。
「さて、バレンタインにチロルチョコをくれた未紅にはフェリックス君ガムを三個進呈だ、3倍返しだぞ、すごいなぁ」
「わ〜い、嬉しいな」
「泣いてくれるほど喜んでくれるなんて、オレも嬉しいよ」
「悔し泣きよっ!」
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