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台風のこと

 
 都心へ遠出していた2人は『運休』との表示が並んだ電光掲示板を前に立っていた。
 2人のうち男の方は唖然と、女の方はニコニコと。
 予想だにしなかった台風による大雨と風の影響で、交通機関がストップしてしまっていたのだった。
 「まいったな、これじゃ帰れないぞ」
 「そうだねー」
 「……なんでそんなに嬉しいんだよ、未紅」
 「いやぁ、なんとなく」
 笑う未紅に、ユウは首を傾げる。
 「だってさ、普段こんなシチュエーションってないじゃない? なんだかオラすっげぇワクワクしてきたぞ」
 「お前は孫悟空か?」
 憮然とするユウ。
 しかしやがて「はぁ」と大きく溜息を吐くと気を取り直したかのように苦笑いを浮かべて未紅に振り返る。
 「そうだな、悩んでいてもどーにもならんから、今日はカラオケで夜を明かすか?」
 「さすがユウ。そうこなくちゃね!」
 「って、おい、引っ張るなよっ」
 未紅はユウの腕を強引に取ると、強い雨の降る街へと飛び出していったのだった。
 
 ずぶ濡れで夜通し遊んだ2人は、結局風邪を引いて寝込むことになったとか。


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