ペルソナ達の午後
静かなる激怒 春菜参上!

 「あらあら、随分散らかしてしまいましたね」
 おっとりした中にも鋭いものを含めた声が雪音の背にかけられた。
 声の主に気付き、びくりと雪音は震えて硬直。
 「くーさん、大丈夫ですか?」
 声の主は瓦礫に埋もれていたくーを抱き上げる。
 「大丈夫じゃないです」
 「ほつれているものねぇ」
 ぽふぽふと、ペンギンについた埃を叩き落として彼女。
 「パートナーは大切にしなきゃダメですよ、雪音ちゃん」
 「は、はい。春菜さん」
 ギギギと首を彼女に向けて、雪音はこくこくと頷く。
 雪音の視線の先には一人の女性。
 すらりとした白い手足が涼しげなブラウスから伸びていた。
 腰に届かんばかりの長い髪はストレート。カチューシャでシックに整えている。
 整った美人の部類に入る顔はしかし、穏やかな表情ながらもどこかしら怒っているようにも感じられた。
 「それで?」
 「え?」
 いや、怒っている。
 くーを手渡され、やんわりと問われた雪音の表情は引きつった笑みに変わる。
 「ユーザーさんの大事なファイルを壊しちゃって……一体これはどういうことかしら、雪音ちゃん?」
 ずずいと一歩迫る春菜。
 それに応じて一歩下がる雪音。
 「う、うぃるすが……アタシじゃないです」
 「うぃるす? コンピューターウィルスのこと?」
 「そうです、今流行りのMSブラスターですよっ!」
 雪音の言葉を春菜は心の中で反芻。
 そして結論。
 「嘘をついちゃダメよ、雪音ちゃん?」
 「嘘じゃないですよぉぉ!!」
 ジト目の春菜に必至に訴える雪音。
 「だってユーザーの奴、ウィルスにひっかかるようなことばっかりやってるじゃないですかっ」
 「どんなことかしら?」
 「サイト巡回にしてもエロサイトばっかりだし」
 「………」
 「2ちゃんねるで厨房やってるしっ!」
 「………」
 「この間なんか、アラスカに国際電話かかったまま一時間もネットに繋いでたんですよ!」
 「雪音ちゃん」
 「はぃ」
 両手で肩を掴まれる雪音。
 何気に雪音の細い肩に、春菜の案外伸びた爪が食い込んでいたりする。
 逃げ場は、ない。
 「ユーザーさんの悪口を言うのは良くないわよ」
 春菜から笑顔が消えて行く。
 「ひ、ひぃぃ」
 思わず悲鳴を上げる雪音と、
 「ガクガクブルブル」
 彼女の腕の中で震えるしかないくー。
 「ユーザーさんは日経新聞とか、株価速報とか、HOTWIREDみたいなカッコイイ(春菜の理想)ビジネスマン系のサイトしか見ていないわ。嘘を言っちゃダメ、ユーザーさんの、悪口だけは許せないわ、雪音ちゃん?」
 「「うひぃぃぃ!!」」
 徐々に鬼神へと変わり行く春菜に、一人と一匹はただ震えるしかなかった。


≪次回予告≫ 
不可避の怒りを前に、一人と一匹は逃れることが出来るのか?
ってか、TPO過ぎだぞ、ユーザーよ!?
次回『飾りじゃないのよ履歴は♪ 絢夏降臨』
怒った顔も魅力的?

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