ペルソナ達の午後
藁のように殺すぞ! 観秋発現

 ざわ
 ざわざわ
 ざわざわざわ………
 三人を囲むようにしていつの間にやら出現したそれらは、黒い球体。
 先程、雪音がぶち倒したMSブラスターと同型だ。
 それがおよそ……30体以上。
 じわじわと包囲の輪を縮めつつあった。
 「ちょ、雪音っち!」
 額に汗しながら雪音の腕を掴む絢夏。
 「これってヤバくない?」
 「ヤ、ヤバイね」
 「ヤバイですね」
 即答の雪音とくー。
 くーは深刻そうな顔で続けた。
 「このままボク達は凶悪なウィルス達に囲まれて、四方八方から弄ばれてしまうでしょう。たとえ一体二体倒したところで奴等は引かない。押し倒されて捕まって……」
 そのくーの言葉を引き継ぐ声は後ろから。
 「絢夏姉さんも雪音さんも身動き一つできずに、やつらのおもちゃになってしまうんです。前から後ろから、もー、あんなことやこんなことを…それはもぅ、ここに記述できないほどのエロスですわ」
 「触手プレイまんせー」
 「まんせー」
 「「まんせーじゃねぇ!!」」
 ごめす!
 雪音の踵落としはくーを潰し、絢夏の拳は突如として現れた少女のど頭に炸裂。
 「ってか、観秋! アンタ一体どこから沸いたのよ?!」
 観秋と呼ばれた少女――小学生と中学生の間くらいであろか、穏やかそうな表情だがメガネの奥で怪しげな光をたたえている彼女は殴られた頭をさすりつつ、二人と一匹を見上げた。
 「細かいことは言わない約束よ、絢夏姉さん」
 「いえ、全然細かくないし」
 「そんなことより今をどうするかが問題だよ、雪音ちゃん!」
 「え、ええ、そうね」
 足許からくーに言われ、我に返る雪音と絢夏。
 その間にもじわじわとウィルスの輪は狭まってきている。
 「そもそもこいつらはウィルスなの? ウィルスってこんなに好戦的だったかしら??」
 「そうね。それにチームプレイをしてくるなんて…」
 身構えながらの絢夏に雪音もまた背を合わせるようにして呟く。
 その二人の間でくーを抱えた観秋がメガネの端をくぃっと持ち上げ、言う。
 「あれは私の記憶が確かならばフシギダネね」
 「「訳わかんねーよ」」
 「そんなことより」
 「「流すなよ」」
 「この状況を打破するノーベル賞級の作戦があります」
 「「先に言えよ」」
 「だって二人の触手プレイが見たかったし…」
 「「マジで殺すよ?」」
 純粋な殺意が込もった視線を突き刺された観秋は、仕方なしに一人の人物を指差した。
 それは彼女と観秋の姉、春菜だ。
 なにやら「ユーザーさんはそんな人じゃ…」とかぶつぶつと呟きながら俺ワールドに埋没中である。
 「あ、忘れてた」
 と、雪音。
 絢夏は慌てて姉に駆け寄り、その肩をがくがくと揺さぶった。
 「姉さん、ヤバイって。正気に戻ってよ!」
 「……そんなことは…でも」
 「ちょっと、姉さん! こっちに戻ってってば!」
 「…違う、そんなはずは」
 「姉さん! …この貧乳娘が」
 「誰がよっ!」
 ごす!
 「のげ!」
 春菜の肘鉄をこめかみに食らう絢夏は目に涙を溜めつつも何とか踏みとどまった。
 「あーやーかー、だーれーがー『貧乳』ですってー」
 鬼神と化した春菜はまっすぐに綾香を見下ろす。
 「ちょ、今はそれどころじゃ…」
 「言葉の前と後ろに『サー(sir)』をつけろっ!」
 「サー姉さんサー!」
 「発言を許す」
 「サー周りを見ください、サー!」
 「回り?」
 くるりと春菜はウィルス達を見回した。
 「そんなことより絢夏ぁ、今の失言を訂正なさいぃぃぃ!!」
 「うぁ、全然分かってないよ、この人」
 額に汗する雪音。
 そんな怒りの春菜の背をぽんぽんと叩くのは…包囲の輪を縮めたウィルスだった。
 降り返る春菜。
 「アナタもなの?」
 「??」
 ジト目で睨まれ、思わず?マークを表現するウィルスその1。
 「アナタも私を貧乳と言うの? 言うの? 言うんでしょう? 言うのかーー!!」
 ごす!
 裏拳がウィルスその1に炸裂、それは血(?)飛沫を上げて0と1に分解されていった。
 春菜の攻撃を機に、ウィルス達は一斉に彼女に襲いかかる!
 「みんなそう言うのね! 乙女の敵、敵よっ!」
 仄かに輝く両腕を振り上げる春菜を見て、すっかり観客と化した三人と一匹はくる衝撃に身構えた。
 「藁のように殺してやるわ、春菜デストラクション!!」
 両腕を地面――データ領域に叩きつける春菜。
 彼女を中心に猛烈な衝撃波が生まれ、襲い来るウィルス達を一気に飲み込んだ!
 春菜デストラクション――彼女を中心とした半径20MBの領域データを全て0に書きかえるという、非常に迷惑極まりない荒業である。
 「「うぁっ!」」
 荒れ狂うデータの嵐に身を屈める三人と一匹。
 やがて嵐が止む。
 顔を上げるとそこには何も無かった。
 いや。
 あるのは、
 「あら? 私は何をしてるのかしら??」
 ひたすらに首を傾げている春菜一人が佇んでいるだけであった。


≪次回予告≫ 
ようやく我に戻った春菜さん。
しかし状況を把握していない彼女は力になるのか?
そしてとうとう黒幕が姿を現した。
次回『まるっとお見通しだ! 乙音飛来』
犯人は、君だ。

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