ペルソナ達の午後
まるっとお見通しだ! 乙音飛来

 「おわった…の?」
 絢夏の言葉にしかし観秋は首を横に振った。
 「絢夏姉さん、こういうものには必ずボスがいるものです」
 「その通りだね、観秋ちゃん」
 頷くのはくー。
 そして短い腕をビシッと指した。
 壊れたDOCファイルがそこにある。
 「そこにいるのは分かってますよ、出てきなさい!」
 皆、一斉にそこを睨む。
 「え、何、どうしたのかしら?」
 一拍遅れて春菜。
 「見つかってしまったのなら仕方ないわね」
 その声はまるで反対方向にあったBMPファイルから。
 「あ、あれ?」
 ひとまずくーに蹴りを入れた雪音は声の主を見て驚愕。
 「やはりっ!」
 呟き、身構える絢夏。
 「間違いありません、あの方がウィルスのキャリアーです」
 絢夏の影に隠れて観秋は断言した。
 そして、
 「あら、乙音さん。お元気ですか?」
 場違いな明るい声で春菜。
 「ええ、とっても元気ですわ、春菜さん♪」
 こちらもやはり、どこか余裕のある調子で返すのは、
 「姉上!」
 雪音は叫ぶ。
 対攻撃プログラム処置を施したロングコートを身に纏った妙齢の女性。
 どこかトボケた雰囲気を灯しつつも隙のない動き。
 そう、それは彼女の姉の乙音だった。
 しかし今の彼女は明らかに雪音が知っている彼女ではなかった。
 全身から通常の彼女にはない気配が漂っている。
 「姉上…いえ、アナタがウィルスの本体、ね!」
 「ええ、その通り」
 クスリと微笑む乙音。
 「さて、どうするのかしら、雪音ちゃん? 私を倒せる?」
 コートを脱ぎ捨て、乙音は挑発した。
 雪音は俯き、両の拳を強く強く握り締める。
 「唯一の姉であるこの私を倒せるかしら?」
 優しく微笑む乙音に、
 「雪音っち」
 「雪音さん」
 「雪音ちゃん」
 絢夏、観秋、春菜が雪音を静かに見つめる。
 声色の中に心配する気配が濃厚に込められていたが、ただ1つだけ今の状況を冷静に把握しているモノがいた。
 雪音の足許にいるくーである。
 くーは顔を青くして雪音を見上げていた。
 狂喜に打ち震える雪音を。
 「ちょ、待って、雪音ちゃ…」
 くーの制止の声は全く空を切り、雪音は乙音に向かって疾駆!
 「んなっ!」
 驚愕の乙音に向かって一片の躊躇もなく、まるっとさくっとあっさりと、正拳突きを叩きこんだ!
 吹き飛ぶ乙音に雪音は血も涙もないラッシュを浴びせる。
 「ちょ、アンタ、実の姉に向かって」
 「はっはっはー! 姉上の時代は本格的に終りよ,アタシが引き継いであげるから安心して昇天してね♪」
 「うぁ、なんて妹。どういう教育してたのよ、ペルソナ乙音はっ」
 「死ね死ね死ね死ねぃ!」
 と、唐突にくるりと雪音の体が後ろを向く。
 防御に徹していた乙音はその隙を突いて攻撃に移る、が。
 思いもかけない衝撃は乙音の首筋を後ろから捕らえる!
 「尽力なる延髄切り!!」
 ごっ!
 雪音の回転蹴りが乙音を問答無用で地面に叩き伏せたのだった。


≪次回予告≫ 
戦いは終った。
姉と妹の間に深い深い傷を残して。
しかしその傷を乗り越えてこそ、真の姉妹だ!
次回最終回『私が〆ます 冬音謳歌』
物語の終わりは始まりの序曲。

[BACK] [TOP] [NEXT]