Diary


稲荷話は今回を含めて残り3回の予定です。
もう少しお付き合いくださいね♪


時間2分前。
店の裏の小さな公園。そこで自転車を止めてカノジョを待つ。
時間ぴったりに、慌てて出てくるのがいつものことだ。
空を見上げれば、西の空が赤く染まっていた。
明日も晴れだろう。
視線を下ろす。
思わず身体が強張った。
そこには黒い大きな人影が1つ。
「お前は……っ」
僕の目の前には先日出会った豹頭の怪人が立っていた。
「やはり」
怪人は一人呟きながら一歩一歩近づいてくる。
「やはり、人間でありながらこの妖に対して耐性がある」
僕は身構える。走って逃げ切れるか……いや、多分無理だ。
相手は人間ではない。それお稲荷や犬神の追跡をすんなりと抜けることができる存在だ。
「実に興味深い素体だ」
豹の口元が引きつる。恐らく笑っているのだろう。
怪人が一歩こちらに進むたびに、僕もまた一歩後ろへ下がっている。
やがて。
とん
「ふみゅ」
背中に柔らかいものが当たり、それはクルリと僕の前へ。
「お待たせ。遅くなっちゃった」
それは僕のカノジョ。小さく舌を出して笑っている。
当然、僕の目の前にいる――カノジョの背後にいる豹頭の怪人には気づいていない、のだろう。
「さ、早く帰ろう!」
カノジョは僕の腕を胸に抱いて、引っ張っていく。
3歩進んだところで、豹の怪人に頭からぶつかった。
「あぅ、ご、ごめんなさい!」
慌てて顔を上げるカノジョ。
怪人と目が合い、硬直。
「あ、えーっと、マスクお似合いですね」
「いや、ツッこむところそこじゃないですから!」
思わず僕がツッコミ。
カノジョを抱きながら、後ろへ数歩下がる。
「なるほど、妖全般に対する耐性はその娘から得たということか」
豹頭の怪人は何かを納得しながら両腕を広げた。
両手の指に5本づつの刃が光る!
「え、敵なんですか?!」
「そうだよっ!」
あっと驚くカノジョを引っ張りながら、僕は怪人に背を向けて駆け出した。
当然ながらヤツは追いかけてくる。それもかなり余裕で、だ。
「お前は私の素体となりうる可能性がある。殺しはしない、安心せよ」
「何か言ってるね」
「そーだねっ、そんなことより良い感じの撃退方法はないかなっ!」
僕に引っ張られながら、カノジョは「うーん」と唸り、
僕と怪人の間で背筋を伸ばして悠然と立ち尽くす。
そしてビシッと天を指で差して、
「姉・召還!」
無論、すぐ来るものではない。
「他力本願だなっ!」
「人のこと言えないでしょ!」
ごもっともだ。
「残念だが、昨日のお仲間はそう簡単には…」
豪腕を頭上に振り上げた豹頭の怪人は、狙いをカノジョに定める。
「…こない!」
振り下ろす,僕はカノジョの腰にタックル。押し倒して凶刃から何を逃れた。
「っ!」
「え?!」
左わき腹に痛みを覚えるが、とにかくコイツの前から逃げなくては。
カノジョの手を取り立ち上がり、
「うっ」
頭から冷水を浴びたような感覚を覚える。両足から力が抜け、僕はカノジョの上に覆い被さるように倒れてしまう。
「血がっ!」
僕の下で、カノジョが懸命に僕のわき腹を押さえていた。
両手が真っ赤に染まっている。それは……僕の血?
すぐ背後に豹頭の怪人の気配。こちらに向かって鋭い爪の伸びた手を伸ばすのが視界の隅に映った。
と。
「ぐっ!」
その腕が横に凪ぎ飛ばされる。
白い旋風が僕のすぐ隣で巻き起こった。
『鎌イタチの速度を侮る無かれ』
「おまたせ♪」
それは年端もいかない少女だった。
「またお前か」
豹頭の怪人は忌々しげに言い放ち、少女に向かう。
両腕から繰り出される10の凶刃を神速で交わしながら、彼女もまた何らかの方法で切りつけているようだった。
だがその攻撃は怪人の肌を通さないようだ。
少女は一瞬、怪人の後ろを見つめる。
「余裕は無いぞ」
怪人の連撃が襲う。それに対し少女は彼の懐に飛び込んだ。
彼は大きく態勢を崩し、腕を大ぶりに薙いで少女を撃退させた。
「きゃふ!」
鎌イタチの少女はその一撃に吹き飛び。
隙が生まれた!
「そこだ!」
裂帛の覇気は怪人の背後から。
現れたのは犬神。
彼の右腕が、後ろから豹頭の怪人の右胸を貫いた!
血に塗れた腕は怪人の胸で、彼を覆うように纏われていた黒い霧をしっかりと掴んで離さない。
「教官、今です!」
彼が叫んだかと思うと、
『解析する』
異なる声がその口から漏れた。
一瞬遅れて、彼の手にあった黒い霧は煙のように消えてなくなった。
「逃げられた!?」
『大丈夫だ、ある程度は分かった』
2つの声が彼の口から漏れている。
『厄介だぞ、この相手は』
彼のものではないと思われる声が続ける。
『無線というのか? 人の作り出したネットワークを介して移動している』
「移動先は?」
『大丈夫だ、掴んでいる。それよりも』
彼(ら)はこちらを見る。
「大丈夫でしょう、彼女は姉とは異なる属性を選択していますから」
犬神である彼は僕と、僕の下で僕のわき腹を押さえているカノジョを見遣って言った。
僕は視線をカノジョに移す。
カノジョは目に涙を溜めて僕のわき腹を押さえている。
カノジョの手を通して、焼けるような痛みとくすぐったさが伝わっている。
冷静に見やれば、ビールの大ジョッキをぶちまけたくらいの血が地面に広がっていた。
結構傷は深いようだ。
「止まった…」
小さな溜息が彼女の口から漏れる。
そしてもぞもぞと僕の下から這い出し、僕の顔を覗きこんだ。
端正なカノジョの顔は、血と涙でぐしょぐしょに汚れていた。
「ごめんなさい、私がついていながら…」
「ついていてくれたから、血は止まったんだろ」
笑って僕は応える。が、その声は失血のせいか掠れ、彼女にようやく伝わる程度。
「ありがとう、助かったよ」
言葉に、カノジョは首を横に振りつづけるだけだった。
「ちょ、何だ、この血は?!」
驚きの声がカノジョの背後から上がった。
「怪我したのか!」
視界に慌てた表情のカノジョの姉が現れた。
「あー、大丈夫大丈夫」
「全然ダメでしょうが。声掠れてるしっ! 貴女がついていながらこれはどういうこと!?」
カノジョに詰め寄る彼女に、僕は腕を掴むことでどうにか引き止める。
「これは僕の油断だから……」
「でも」
「むしろかなりヤバイ傷を治してくれたんだよ。感謝こそすれ…」
口が彼女の手でそっと塞がれた。
「分かったから。しゃべるのも辛いんでしょうから黙ってなさい」
言って、犬神に彼女は視線を移した。
「先生。私達は先に失礼します」
『ああ、後で連絡する』
犬神を通した声に、稲荷姉妹は僕に振り向いた。
柔らかな2つの表情に、僕は安心してしまったのか急速に気が遠のいていったのだった。

* 何気に瀕死

本日は御調さんから乙音と氏のページのキャラとのコラボストーリーを頂きました。
大幅に改造されたインプレッサに乗せられた乙音が体験することとは……?!
御調さん、ありがとうございましたー♪
【更新】御調さんよりキャラリナSS『続・クルマスパイラル』をいただきました。

5th June/2005


今回より稲荷話を続けざまに掲載。
そのまま終わりまで突き進みますよー!


「先輩、昨日はご迷惑をおかけしました」
「いや、貧血だからしょうがないよ」
「はぁ……、でも私、貧血で倒れるなんて始めてです」
そう言って後輩であるところの彼女は顔を赤くして俯いてしまった。
「私、重くありませんでした?」
「あー、いや、全然。うん」
昨日は、あれから彼女を家まで運んだのは犬神の彼だったのだが。
豹頭の怪人は結局何だったのかは僕には分からない。
カノジョのお姉さんと犬神は知っているようだけれど、昨日以来会えていないので何が起こっているのか僕にはさっぱり分かっていないのだ。
ピピピッ!
僕の腕時計が小さな電子音を立てた。
「ご迷惑をおかけしたお詫びに、お茶でも…」
「ごめん、教授には僕は今日は帰ったって言っておいて」
「あ……」
彼女が何か言いかけていたようだが、大した用事ではないだろう。
僕はカバンを取り、研究室を後にする。
「あ、先輩…」
「また明日ね!」
僕は早足から駆け足に変える。
カノジョとの待ち合わせは20分後。
いつも通り、カノジョのバイト先の店の裏通りだ。
僕は駆けながらカバンの中を確認する。
手のひらに乗るくらいの、小さな箱が1つ。誕生日のプレゼントである。
そう、今日はカノジョの誕生日なのだ。
確認しつつ、やがて僕は大学の自転車置き場へ。
愛車にまたがりながら、僕はプレゼントを受け取ったときのカノジョの反応を想像しつつ、ペダルを踏んだ。


小さな稲荷社の前に3つの人が立っている。
1つは女。厳しい表情で腕を組んでいた。
もう1つは男。こちらも難しい面持ちだ。
最後に少女。まだ年端も行かない外見ではあるが、2人の男女よりもずっと年を経ているような雰囲気がある。
『化け猫、か』
少女が男女の区別のつかない声で呟いた。
「ええ。アレは間違いなく化け猫の能力『畏怖』」
「ただ人を脅かすことだけに特化した、やつらにしかない特殊能力だな」
「人の恐怖を、知りたがってるんじゃないかなぁ」
少女から、先程とは異なる年相応の声が漏れた。
『恐怖か、十中八九そうであろう』
答えるのは少女自身。
「となると、問題は化け猫を操っているヤツが何を望んでいるか、だな」
男が顎に手を添えて唸った。
「鎌イタチが『怒り』、桜が『楽しみ』、そして今回の化け猫が『恐怖』」
女が指を折って数えていく。
『単に我々が気づいていないだけで、他にも妖を操って人の感情を調べている可能性は高いな』
「人の感情、か。だが何の為に?」
男の問いに少女の中の声が応える。
『もしもこれがワシならば、人を知り、そして』
一旦言葉を区切る。
『自身が人に近づくため、であろうな』
「人に近づくため、ですか」
女は納得したように頷くが、男の方は訝しげだ。
「何故に人に近づくために?」
『では何故、犬であるお主は人の姿をしている?』
逆に問われ、男は「むぅ」と小さく唸った。
『ワシはここにいて、ここに在らざるモノ。今回の騒動を起こしているモノもまた、ワシと同じような存在のような気がすることはワシがここに来た時にすでに話したな』
「はい」
「ええ」
『ワシのような実体となる本体がすでになく情報のみの存在は、心の奥底で実体をとることに憧れを抱くのだよ』
「そうなのですか?」
犬の男は呟き、
「…だから問答無用で乗り移るのか」
憮然と女は小さく呟いた。
『今回のヤツも、何らかの原因で実体が無い存在であるとしたら。それでいて『生まれた』ばかりの存在であるとしたら?』
「人になるために動き出すってことかな?」
そう、少女の声が漏れた。
『ではないかな? だから人の感情を理解しようと様々な方法でサンプル数を増やそうとした』
「ちょっと待って」
女が顔を曇らせて発言許可を求める。
「もしも、そのサンプルの中で他とは違う例があったとしたら。特異な例があったとしたら、どんな反応があるだろうか?」
「それは」
「もちろん」
男と少女は顔を見合わせ、そしてはっとする。
「ヤツは……」
男の言葉を少女の中の声が引き継ぐ。
『もう一度、『彼』を狙うだろう』

* とうとう『僕』に今までの幸せだった分のツケがっ!

聖ルミナス女学院のSS作家◆Lumi/2sUEIさんから2本ショートストーリーを頂きました、ありがとうございます。
本数が結構溜まってきましたので、これを機にGalleryのコーナーに『聖ルミナス女学院の個別教室』を設置しました。
ノーチェックだった方は一気読みだっ!
なお今回も18禁ですので、未成年の方はご遠慮ください。

【更新】Galleryに『聖ルミナス女学院の個別教室』を設置。
  聖ルミナスSS『はやく起きた朝に』をいただきました。
  聖ルミナスSS『音楽室の愛人』をいただきました。

4th June/2005


「そろそろ梅雨ね、雪音ちゃん」
「そーだねー」
うんざりとした声で呟いた相馬 恵美に、隣を歩く雪音は気のない返事。
しとしとと、糸のような雨が降り続く夕方。
西の空はどんよりとした分厚い雲で覆われ、太陽の形は見えない。
そろそろ外灯が付いてもおかしくない薄暗さだった。
こつこつ
恵美の足音に、
かこっかこっ
ばしゃばしゃ
雪音の足音が続く。
こつこつ
かこっかこっ
ばしゃばしゃ
「あ、あのね、雪音ちゃん?」
「なぁに、恵美ちゃん?」
「えーっと」
困った顔で恵美は雪音の足元を見つめる。
彼女の視線の先には、黄色い長靴がある。
雪音のはく長靴である。
長さはちょうど彼女の膝まで。てかてかのゴム製の、長靴としか言いようのない長靴だ。
間違っても、ブーツなどというオシャレなものではない。
それが雪音の着るセーラー服と、これまた子供のさすような黄色い傘と、妙にマッチングしているから不思議ではある。
「どうして長靴?」
「?? だって、雨降ってるし」
「それはそうなんだけど……」
「あ、だってせっかく履いてるんだからさ、水たまりに突入しなきゃ♪」
「あー、そーじゃなくて、ね」
そこまで言って、恵美は言葉を飲み込む。
そう言えば、いつのころから雨の日に長靴を履かなくなったのだろう?
幼稚園の頃は履いていたと、思う。
雨の日に長靴を履いて、今雪音がやっているように水たまりにわざと入るのが楽しかったっけ。
いつの頃からだろう、雨の日が嫌なものだと思うようになったのは。
「そーじゃなくて?」
雪音が恵美の顔を覗き込んでくる。恵美は我に返って慌てて首を横に振った。
「ううん、なんでもない。ただ雨に濡れちゃうよ、って思って」
「まぁ…でも、ただの水だし」
雪音は笑って、水たまりの中でくるりと一回まわる。
「ただの、水。そうね、ただの水だもの、ね」
恵美は笑って、そして。
「えい!」
軽くジャンプ。飛んだ先には、
ぱしゃ!
水たまりだ。彼女の靴は濡れ、白い靴下が雨水に汚れた。
「うん、こんなのも良いかもね」
「? 変な恵美ちゃん」
「雪音ちゃんに言われたくないよー」
少女2人、雨の空の下で笑い合った。

* Jump into a puddle

げげんちょー! まほらばが30分ズレてて録画できてねぇ!!
だーいショック……(スケールの小さな悩みだなぁ…)。

30th May/2005


今日は稲荷話をちょびっと―――

「先輩はお休みの間、何処に行ってきたんですか?」
帰り道。
そう研究室の後輩であるところの女の子が尋ねてきた。
「ああ、ちょっと奄美の方にね。君も海の近く…行ったみたいだね」
「分かります?」
笑う彼女は以前、不自然とも思われるほど白かった肌の持ち主だった。
しかし今は仄かに小麦色に染まっている。
僕もそこそこ焼けてはいるのだが、彼女にはかなわないほどだ。
「商店街のくじ引きでハワイ旅行が当たりまして。友達と行って来たんです」
「へぇ、そうなんだ」
「先輩はどなたと行ってきたんです? 家族とですか?」
「いや、カノジョと」
「あ……、そうなんですか」
それっきり何故か彼女は黙ってしまう。
すっかり夜は更け、点々と灯る外灯の明かりのみが僕達の足元を照らしている。
「そうそう、先輩。知ってますか?」
「ん? 何を?」
唐突に沈黙を破った後輩は僕に告げる。
「最近、この辺にお化けがでるらしいんです」
「お化け??」
「はい。この」
言って彼女は僕達が歩く道沿い――道と並行して走る小川と呼ぶに等しい流れを指差した。
「川沿いの道にですね、世にも恐ろしいお化けが出るそうなんです」
「はぁ、お化け、ねぇ?」
「信じてませんね。これまで何人もの人が遭遇して、あまりの恐怖に気絶して朝を迎えるそうなんですよ!」
「ふーん」
力説する彼女を軽く流す。
悪いとは思うが、あまりにも幼稚な内容だからだ。
「もー! 例えばですね、あんなコートを着た人がじっと一人で外灯の下で佇んでいるんです」
彼女はびしっと前を指差す。
そこには外灯の明かりに照らされ一人、佇むオーバーコートを羽織った男の背中。
この季節にあんなものを羽織っているとは、なかなか暑苦しい奴ではある。
「あ、えっと」
指差したまま、隣の後輩はおずおずと指を引っ込めた。
僕達の歩みはやがて怪しげなその男まで到達し、その横を通り過ぎる。
ぎゅっと、僕の左腕が後輩に抱かれた。
彼女はなるべくコートの男を見ないように僕の腕に顔を埋めている。
歩きにくいことこの上ない。
何の問題もなく僕達は彼の隣を通り過ぎた。
こつこつ
こつこつ
かつかつ
足音が。
僕達二人以外の足音が、ぴったりと後ろに続いている。
こつこつ
こつこつ
かつかつ
前からの風が僕達の間を吹き抜けた。
それを拍子に地上が冷たく眩しい月の明かりに、さぁっと照らされる。
月を覆っていた分厚い雲が崩れたのだろう。
僕はふと後ろを振り向いた。
僕の腕を抱く後輩もまた、僕につられて振り返った。
そこには、男がいた。
コートの男だ。
月明かりに照らされたその顔は。
「シャーーー!!」
爛々と輝く赤い2つの瞳。耳まで裂けた口に、鋭い牙がびっしりと並ぶ。
肉食獣の放つ声を張り上げ、豹頭の怪人がそこにはいた。
「ひっ!」
ビクリ、僕の腕を一瞬痛くなるくらいきつく抱いて、後輩はその全身から力を抜いた。
気を失ったのだ。
豹頭の怪人の、その恐ろしい形相を見て気絶した訳ではないことを薄々僕は感じていた。
怪人の発する禍々しい気配を直接ぶつけられ、それが恐怖となって彼女の中にあるヒューズが飛んだと考えた方が良いかもしれない。
だが、それは僕には効かない。
何故なら、この怪人程度の圧力ならば普段から身近に接しているからだ。
「何者だ!」
後輩を支えながら僕は問う。
「ほぅ」
豹頭の怪人は声を発して僕に一歩歩み寄る。
「私が恐ろしくはないのか?」
「…たいしたことはないね」
そんなことはない。
奴が一歩近づいてくるごとに、嫌な汗が背中に流れる。
彼がまとうのは明らかな『殺意』。人を殺すことなどまるでなんとも思っちゃいない、そんな殺意だ。
「それでは、これではどうか?」
怪人は右手を振るう。
そこには毛むくじゃらの腕と、そこから伸びる豹のような鋭い爪が現れている。
彼は腕を突き出す。
僕に向かって!
「っ!」
僕の首筋に、まっすぐに爪が突きつけられた。
つつっと、先端が首の皮一枚を切り裂くのが分かる。
「……人間にしては変り種だな。貴様の瞳には恐怖とそれに伴う絶望が見えない」
良く分からないことを呟く怪人。
こいつの言う事は良く分からないが、分かることがある。
それは。
僕はかなりの確率で絶体絶命だということだ。
「さて、どうするか」
怪人の爪が僕の首筋で動いた。
その時だ。
視界の隅で、月明かりが何かに反射した!
バキ!
直後、僕のあごの下で何かが砕ける音。
同時、怪人は僕から一瞬にして距離を取った。
砕けたのは怪人の爪。砕いたのは、
「じっとしていろ」
「マスター!」
2つの人影が僕と怪人の間に踊り込んだ。
それは1組の男女。
月明かりをその身に纏い、仄かに輝いて見えた。
そして怪人に負けず劣らずの殺気をその身に宿している。
僕の知る者達だった。
「お姉さんと……いつぞやの、犬?」
「犬神だっ!」
男の方が振り向かずに叫ぶようにして言う。
「とんだ邪魔が入ったな」
舌打ちと呟き。
それだけを残して、豹頭の怪人はまるで煙のようにその場から完全に掻き消えたのだった。
「逃げ足は速いな」
「くそっ、完全に匂いも断ち切ってやがる」
2人はそれぞれに肩の力を落とすと、殺気を消してこちらに振り返った。
「ありがとう、助かったよ」
そして、普段通りの夜が戻る。

* ばけねこ?

内容をすっかり忘れてしまった「聖ルミナス女学院」を観ました。
もー、さっぱり脳内から記憶が飛んでおりまして、一気に最終話まで楽しみましたよ。
観終わってからなんですが、龍三というインパクトが強すぎる女装ヤローの存在を忘れていたことに愕然とします。
なんでこんなに濃ゆい奴を忘れていたんだろう??
あと「わたしゃ、知ってるよ」という有名すぎるセリフを吐くババアは名前が「萌絵」っていうんですね。
さらに恐ろしくなりました、侮りがたし! 聖ルミナスっ!!
そんな一日………

29th May/2005


思うところがあって、靖国神社を拝観してきました。
言うまでもなくここは、日本の開国から第二次世界大戦までの全ての戦没者(英霊)を祭る神社です。
飯田橋の駅で降りて……迷う。どうやら通りすぎて市ヶ谷まで行ってしまいまして。
どうにかこうにか到着。訪れる人は老若男女を問わず、さらに国籍も問わず。
穏やかな雰囲気に包まれている神社の隣には、遊就館という資料館が鎮座しておりました。
今回の目的はこの見学。
綺麗な館内には、いきなり戦闘機や加農砲、機関車の展示はら始まっております。
9つの見学ブロックから成り、神話化している神武天皇から始まり、メインとして日本の開国から大東亜戦争の終結、ポツダム宣言受諾までが淡々とパネルを用いて説明されてゆくという流れ。
それぞれに当時用いていた刀や鎧、勲章や遺留品などの展示を行っておりました。
また本日は日露戦争100周年ということで、当時どのように戦われたかを音と映像を用いて劇的に説明したコーナーもあり、結構な人達がそこで足を止めています。
歴史の流れが終わると、遺留品や戦艦模型の展示、写真の残っている英霊達の紹介のブロックとなり、終了となっています。
興味深い資料が多く、つい閉館までいてしまいました。私以外にもそんな人が結構多い、なかなか見ごたえのある資料館。
一度訪問してみることをオススメします。
当時、どういったことがあり、それが元で何が起こり、どこへと向かっていくことになったのか?
戦いの全てが無益なものだったのか?
何故、大東亜戦闘へと突入せざるを得なかったのか?
原爆投下前に、いや硫黄島死守前に戦争を終わらせることは何故できなかったのか?
日本は他に異なる未来を選択することはできなかったのか?
そして今の日本は、果たして胸を張って誇れる国となっているのだろうか??
これらの問いに対する答えはきっと人それぞれ違うと思います。
その答えに対しての解答への参考となる資料が、ここにはありました。
そんな本日は、ちょっと真面目な一日。
つくづく正直、日本帝国軍は今でも最強の軍隊だと思います。
部隊の玉砕覚悟で向かってくるんです。こんなの敵にしたくありません。
恐ろしいのは硫黄島の死守戦。
あの小さな島に、死守する日本軍が約2万1千。対する攻め手の米軍が6万余り。
どうにか占拠に成功した米軍ですが、被害は日本軍2万940ほど,米軍は2万3千。
玉砕です。それも一人一殺以上です。
当時米国でも作戦終了まで撤退論が叫ばれたくらいの、相滅戦だった模様で。
では玉砕を覚悟した日本は愚かだったかというと、そんなことは今でもないと思います。
日本と米国の中間地点であるここを占拠されることにより、本土への空襲が開始されるのですから。
守り手である日本軍将兵達は本土にすむ縁者達の為にも戦っていた訳です。
戦う理由がはっきりしている者ほど強いと思います。
そんな戦いが各地で行われていた大東亜戦争。
悲惨な戦いだったかもしれないけれど、意味の無いものではない。
死んでいった方々の名誉のためにも、戦い自体を否定することだけはしたくないと改めて感じます。


あ、ちなみにしみじみ思ったことがありまして。
『戦う』ということは、生きている限り決して無意味なものではないと。
生きる死ぬとか含めて、日常生活上でも他者との戦いはあります。
それを避けること、抵抗せずに負けること、それもいいでしょう。
でも生きている限り、戦いはあるし、それに勝たねば自分を押し通せない訳で。
また負けること、避けることで自分にとって大切な人達も不利益を被るとしたら?
結局のところ、何とかして戦って勝っていかねばいけないということこそが、生きている証拠なのではないかなぁ。
そんな事をつくづく実感いたしました。
牙を失っちゃ、やっぱダメだろう?

28th May/2005


柳生忍法帖(著・山田風太郎)を読了。
現在ヤングマガジンにて、せやま氏が『Y十M』として連載中の作品。
甲賀忍法帖に比べるとインパクトは薄いけれど、主人公の柳生十兵衛がなかなかカッコイイです。
あらすじを簡単に言うと、一族郎党を藩主とその取り巻きである『会津七本槍』に殺された七人の女性達が柳生十兵衛の力を借りて復讐する、というもの。
見所は、非力な女性の力で一騎当千の七本槍達をいかにして倒していくかであります。
しかしながら七人の女性達の存在感が妙に薄い。お笛くらいしかキャラが立っていないのが欠点かと。
あと後半になってくると、むしろ部外者であった「おとね」の方が出番多いうえに手柄もあって七人の影がさらに薄くなっているような……。
ともあれ、それぞれの「立場」を利用した立ちまわりなんかがなかなか楽しい作品でありました。


巷説百物語(著・京極夏彦)を読了。
かつて深夜にこれをアニメ化したものが放送されていました。
あずき洗いや白蔵主など、各地に伝わる様々な妖怪・奇談を用いてターゲットを陥れていく小話集。
一見すると魑魅魍魎の仕業と思われがちな事件にしておいて、その実はしっかりとトリックがありそして目的がある。
様々に絡み合った事柄が1つに収束していく手腕は圧巻。楽しく読むことができました。
ありがちな推理小説なんかに飽きた方にオススメです。無理のあるようでないお話の展開が素敵ですよ。
ちなみにアニメでやっていた雰囲気とは全然違いました。登場人物、みんな一応人間だし……。


さて、乙音さんの小話でも―――

それは久しぶりにお互いに深酒をした晩の事だったと思う。
「亮クン?」
「……はぃ?」
ちゃぶ台の上には空の酒瓶が1本と、3分の2が空になった瓶。
大部分がなくなったコンビニの惣菜と、俺の作ったつまみがあったはずの空の皿。
そして両肘をついてあごを乗せた乙音さんの眠そうな顔。
同じく、寝そべってぼんやりとテレビの深夜番組を眺めていた俺は気のない返事をしていた。
むしろ条件反射なので、返事をしたことすら実は意識に無い。
「もしもですね」
「はい」
「……ぐぅ」
「……眠ぃ」
「…っと、もしもですね」
「はぃ」
「私が明日にでも、亮クンの前から消えて帰ってこないとしたら……どうしますか?」
「平和ですね」
「平和ですか」
「……ちょっとびっくりしますね」
「ちょっとびっくりしますか」
「びっくりしますね」
「びっくりしますか」
「………」
「それだけ、ですか?」
「んー、そうですね。それから、探すと思いますよ」
「探しますか。どうしてです?」
「せめて引越しの挨拶くらいは、したいですしね」
「律儀ですね、それだけですか?」
「あと貸したCDを返してもらいます」
「……律儀ですね。それだけ、ですか?」
「……どうでしょう? 乙音さんはどうなんです?」
「え?」
「探しにきた俺を見て、何かありますか?」
「……」
「……」
「…分かりません、その時になってみないと」
「俺もそう、思います。そんなもんじゃないでしょうか?」
「そんなもんですかね」
「そんなもんでしょう」
会話は一旦そこで途切れる。次に言葉を発したのは俺の方だった。
「乙音さん」
「はぃ?」
「反対に、もし俺が明日にでも引っ越してしまうとしたら……どうします?」
「困りますね」
「困りますか?」
「はい。呑み友達がいなくなってしまいますから」
「そりゃ、困りますね」
「でしょう?」
「それだけですか?」
「……どうでしょう? 探すかもしれません」
「どうして探すんですか?」
「…せめて引越しの挨拶くらいは、したいです」
「律儀ですね、それだけですか?」
「どうでしょうね? 亮クンはどうなんです?」
「ん?」
「探しに来た私を見て、何かあります?」
「……分かりませんね。あるかもしれないし、何もないかもしれない」
「私もそう思います、そんなもんなんでしょうね」
「そーですね」
それからお互い、酒を注ぎあって泥酔に突入することとなる。
なんでこんな会話になったのか分からないが、珍しく乙音さんも俺もちょっとはまじめな問答だったので覚えていることとなった。
当然、翌日どちらかが引っ越していなくなる、なんてことはなかったが。
しかし俺達は分かっている。
いつか必ず、そんな日が来ることを。

* いつかきっと

「さようなら」という言葉は、簡単なフレーズのクセしてなかなか言えるもんではない。
常々そう思うのです。

26th May/2005


本日はお稲荷話の続きでも。
時間はやや遡り、GW後半頃―――

彼女は通い慣れたアパートのドアに手をかけようとして。
直前でその手を止めた。
時間帯は夕方。
桜の一件からここ最近、周辺で怪しいと感じる気配を一つ一つ確認を取ってきたのだが、そのどれもがただの自縛霊だとかありがちな呪物だとかで、桜の妖精を操っていた本体を確認することはできなかった。
気がつくと数日走り回ってしまっていた彼女は、全身にやや疲労を覚えながらも久々に彼女をよく知る男の家へ遊びに来たのではあるが……。
いつもならばこの時間には部屋の主は大抵おり、彼女の妹と一緒に談笑しているのであるが。
気配を探れば、部屋の中からは人の気配はしない。
据え置かれた冷蔵庫だけがゆっくりと電気を消費する音が聞こえてくるだけだ。
最近は忙しいながらもいつもの社には帰っていたのだが、妹の姿も見ることは無かった。
”もしかして、私には内緒で旅行にでも出かけたのか?”
その通りである。
”しかし、この雰囲気は……”
仕方が無い。不在なら不在でかまわない。
しかし。
しかしである。
部屋の中からは言いようのない気配らしきものを感じた。
だから。
ばき!
彼女は力任せに扉を引き、鍵ごと壊して中へ踏み込んだ。
そこで待っていたのは、
『ふむ、久しぶりだね、狐の少女よ』
「せ、せんせぃ?!」
思わず声を上げた彼女は、部屋の真中で立ち竦む5〜6歳の少年を目を大きく開いて見つめた。
少年は神社の神主の着るような裃を纏い、うっすらと笑みを浮かべている。
少なくとも、彼女にはそう『見えた』。
ふと気を抜くと少年の存在を逸してしまう、そんなあやふやな存在感。
「え、えっと…どうして先生がここに?」
どう見ても歳は彼女の方が上に見えるが『先生』に彼女は問う。
問いつつ、足を一歩後ろに。
『お主も知っておろう。先日我が眷属である桜が襲われたことを』
「え、ええ、そうですね。だからと言って何故先生が?」
そこまで言って彼女はビクリと身体を震わせる。
『ワシと似たモノの仕業と判断した。だからこそこうして出張ってきた訳だ』
「先生と似たモノ……世界樹ユグドラシルに似た要素を持つことなんて、可能とは思えませんが?」
『この世に未来永劫確定した要素などないのだよ、狐の少女よ。ワシがこの世に生まれたという事実があるのなら、ワシと同じ要素を持つモノが生まれる可能性もまたあるはず』
ニヤリ、と少年らしくない邪気のこもった笑みを浮かべて彼――ユグドラシルは言う。
「そ、そうですか。ところで何故先生がここに?」
『この地域にて一番物の怪の気配が強いところへ来てみたのだが』
彼女はちらりと部屋の中を見渡した。
窓際に鉢植えが一つある。それを見つけて小さく舌打ち一つ。
彼――ユグドラシルは世界樹とも呼ばれる植物の王である。
世に生まれた最初の植物にして、全ての植物の眷属の生みの親。
彼の本体はすでに無いが、その痕跡である『根』は今は地脈として名を変え世界中に走っている。
そしてそこからあらゆる植物へとつながっており、それが彼を世界樹と呼ばせる一因である。
そんな生態故に不死である彼は、始源からの記憶を培っており、その知識はこの世の全ての植物に無数に分かれて保存され、また個々の植物から常に知識を蓄積していると言われている。
これをアカシックレコードならぬユグドラシルレコードと知る者は呼んでいる。
閑話休題。
『やはり細かな捜索となるとこの身体では無理があるようだ』
存在感のない体を自ら見て、彼は彼女に右手を伸ばした。
気配の無さが、彼女にとっては盲点だった。
『お主を借りるぞ』
「あ、いやっ!」
回避は遅く。
ずぶりと少年の腕が彼女の胸に沈んだ。
そのまま少年は彼女の中へと飲み込まれていく。
一瞬だけ彼女はぐらりと傾き、
「うむ、全然鍛えておらんではないか。それに力の使い方も偏りがある」
右手を閉じたり開いたりして一人、彼女は呟く。
『あぁぁ……しばらく筋肉痛で動けなくなるー』
彼女の悲痛な思念が響いた。
どうやらユグドラシルに肉体を乗っ取られたようである。
「そもそもお主の妖力の使い方にはいらぬクセがある。ワシの使い方をしっかりと見ておくが良い」
『うぅ』
ユグドラシルはこうして他生命を操り、その能力を100%引き出すことができる。それも無駄使い無く正確無比に、だ。
それ故に彼に操られた者は、己の力の使い方を身を以って知ることができる。
こうして彼はかつて、数多くの妖達に教えを与えてきた。
もっともその頃からの生徒はめっきり減ってしまったが、この稲荷は幸運(?)にも彼の教えを受けた者のようである。
しかし100%の力の発揮というものは肉体に多大な負担をかけるものである。
人間にしても無意識下で常に制御がかかっており、発揮したとしても70%を指せば良いほうだ。
そんな訳で、肉体を乗っ取られた稲荷は必ず後ほど襲い来る筋肉痛に怯えているという次第なのだ。
彼女の思いを知ってか知らずか、ユグドラシルは狐の嗅覚を鋭敏化させる。
周辺の様々な匂いと気配、妖力の情報が怒涛のように彼女の脳内に押し寄せてきた。
『ひぃぃぃ!』
「これくらいの情報でパニックを起こしてどうする。100年前から全く進歩が無いではないか」
叱咤一喝。
ユグドラシルは感じ取った一番大きな妖力に向けて彼女の身体を動かした。
向かう先はおよそ2km南。
『あ、そこは』
彼女が止める間もなく、彼女の足は駆け出した。
そのスピードは風をも抜き去る豪速。
『あ、足が、足がもげるぅぅ!』
「もげたらもげたで、ヤワな足が悪い」
一言で切って捨てられ、到着したのは一軒の住宅だった。
その犬小屋の上に、彼女は立っている。
そしてそんな彼女に向かって唸っているのは一匹の犬だ。
「なんだ、お主か。全くこの街には何人ワシの教え子がおるのだ?」
彼女を乗っ取ったユグドラシルは大きく溜息。
その言葉と気配から、唸っていた犬は硬直する。
「も、もしや教官殿でありますか?」
人語を操る犬。犬の姿で額に汗している。
「なんだ、お主はそんな事も分からぬほど力を使いこなせておらぬのか? これは一度徹底的に叩きなおす必要があるかのぅ」
犬神は稲荷の背後に、懐かしい気配を感じる。
それは稲荷の彼女とは異なり、彼にとってはフルメ○ルジャケットに登場する鬼教官ハー○マン軍曹に似た中年の男に感じていた。
「お、お久しぶりでございます!」
言葉に、犬は二足で立って敬礼をかます。
「しかしワシも運が良い。嗅覚に優れた犬神が見つかるとは」
その言葉に犬神はギクリと硬直し、
『ラッキー♪』
稲荷は安堵に溜息をつく。
が、しかし。
「丁度良い。この詮索を機会に2人とも、しっかりたっぷり鍛えなおしてやろう」
「『ひぃぃぃぃ!!』」
2人の妖の悲鳴を、犬小屋の中で鎌イタチは眠気まなこで聴いていたという。
なお年季の入ったこの2人の妖の100%の力を以ってしても、今回の目標の、その証拠すら見つけることができなかったそうな。

* 続きます。

今更ながらにアニメ「To Heart 〜 Remember My Memories」を観ました。
途中2話ほど撮り逃し、歯抜け状態だったので観るのを放棄していたのでした。
仕方ないので脳内補完をフルに生かし、気合を入れて臨みます!
「あ、あかりが怖い……」
前作でもそうでしたが、常にヒロユキの隣で彼の動向を見張っている彼女は怖い。
今作ではその被害がマルチ自我崩壊にまで達しております。スゲーぜ。
観終えてなんですが、この作品は一体何がやりたかったんだ??
前作での結論から、先に進んでいないような気がしました。
そんな風に感じた一本。


体調ほぼ回復!
同時に気力その他も徐々に回復。
病は気から、健康な身体には健全な精神が宿るとは良く言ったもんだネ!
……健全な精神??

【更新】キャラリナのインストール方法についての解説を作りました。

23th May/2005


本日は乙雪話でも―――

その日は朝から体調が悪かった。
昼には滅多に体験しない頭痛に襲われ、普段は穏やかな時間帯であるはずの3時には意識が朦朧とする。
同時に全身の関節を筋肉痛のような痛みが襲い、それはやがて心臓が一度脈打つくらいで俺に痛みを与えるようになる。
そして、こんな時に限って外出しなくてはいけない日だったりする。
それも昼頃から、しとしとと雨なんぞが降り注ぎ始めた。
ともあれ、編集との長くも重要な会議をどうにか終え、帰路に着くころは夕時だ。
通勤からの帰り客で混雑する電車に揺られ、駅に着くころには完全に千鳥足である。
雨は小降りでしとしと状態。傘など持ってこなかった俺は当然のように何も差さずに歩み始める。
「なんとか……帰り着くことはできるな」
ぼんやりした頭で現在の状況を把握する。
身体状態はおそらく風邪による高熱。
自宅には解熱剤に使用できるバファ○ンがある。そういえば優しさの半分って何だろうな?
いやいや、それはどーでもいい。
他に必要なものは……そうだ、水分補給にスポーツ飲料水が欲しいな。
近くにスーパーかコンビニは…ない。少し歩くか? 体力はもつか?
いや、もたないな。このまま帰宅した方が良い。
待てよ、病院に寄るべきではないか?
しかし今この時間にやっているところなんてないな。最悪は明日行こう。
ゴホ、ゴホッ!
咳が俺を襲う。
身体をくの字に曲げる、同時に凄まじい頭痛と平衡感覚の麻痺が起こった。
「やばっ」
思わず右手を伸ばす。ざりっとした感触が手のひらに。
石壁だ。
手の痛みにどうにか持ちこたえる。
”思ったよりも消耗が激しいな。はやく家へ”
息荒く歩を進める。駅からアパートまで、これほど遠く思ったことは無い。
「タクシー拾ったほうが良かったかっ」
思うが遅い。
雨に引きずられ遅々として進まない足は、しかしどうにか住み心地の良いアパートへと到達した。
”あと、少しだな”
ほっと一息。
目指すは2階。俺は雨で濡れた錆びた手すりを掴みながら階段を上っていく。
ざー
気がつけば雨は強く振り始めていた。ぐっしょり濡れた髪から雨が滴っている。
「風呂に入る気力は無いな」
なんとか玄関先までたどり着いた俺は、朦朧とした意識の中で鍵を取り出し震える手でドアへ。
がしゃり
隣の戸が開いた。
そこからは見慣れた顔が現れる。
「あら、おかえりなさい、亮クン。どうしました、びしょ濡れじゃないですか」
のほほんとした、いつも通りの乙音さんの顔だった。
いつもと変わることが無い、俺にとっては安心感を与えてくれる顔。
それが、わずかな緊張感でここまでたどり着いた俺に止めを入れた。
どさっ
自分の倒れる音が客観的に聞こえる。
「ちょ、ちょっと、亮クン?! ど、ど、ど、どうしたんですか!!」
駆け寄ってくる乙音さんの気配を感じながら、俺の意識は完全に消えていった。


古くて覚えている価値などない記憶だと、客観的に感じた。
夕暮れの美術室。
中学生の俺は、何枚目になるのだろう、目の前の女の子の似顔絵を描いている。
描かれているのは特徴の無い、むしろ存在感の薄い子だった。
様々なアングルから描かれた絵を見直しても、どれも特徴を見出せない。
綺麗な子ではあったと、思う。
そんな子を、俺はスケッチしている。
同時に、前の子も俺の顔を描いていた。
2人にはただ、違いがある。
俺の似顔絵はすでに複数枚であり、課題としてどれを提出しても良いのだが、目の前の子はまだ一枚目。
それも上手い訳でもなく、丁寧な訳でもない。
ずばり、下手でセンスが無いのだ。
だが、一生懸命ではある。嫌になっているであろうこの作業をとにかく続けている。
だからすでに課題を終えてしまっている俺だけれど、こうして付き合ってあげている訳だが。
「あの」
どこかで声がした。
「あの、高槻くん?」
目の前の子だった。
「ん?」
「ごめんね」
「…謝る暇があるんだったら、さっさと描いてくれ」
「う、うん」
再び沈黙が下りる。
遠く、グラウンドからは運動部の声が聞こえてくる。
「高槻くん?」
「ん?」
彼女は手を動かしながら、一瞬俺をチラッと見てからスケッチブックを見つめる。
「………」
「えっと、その」
「なんだよ」
「高槻くんはカノジョとかいるの?」
「いねーよ」
「そぅ…」
沈黙の帳が下りる。
遠く、運動部の声が再び聞こえ始めた。
それだけだった。
ただ、それだけの記憶。
何故こんな記憶を覚えていたのか、不思議だった。
同時。
当時は分からなかったけれど、今振り返ればそこにどんな意味があったのか、なんとなく分かるような分からないような。
そんな感想を得た。
意識が次第にはっきりとしながら俺は思う。
これって、もしかして走馬灯の一種、かな?


目を開くと、そこには見知った女性の顔があった。
「……おはようございます、意識はありますか?」
沈痛な面持ちで彼女は開口一番そう言う。
乙音さんである。
「はい。えーっと、一体何が何やら??」
「風邪をひいているのに無理をするからですよ。それも雨の中、傘も差さないで」
わずかに頬を膨らませて、怒っているようである。
「すいません。色々と、その」
俺は今の状況を確認する。
寝巻きに着替えて布団の中で寝かされていた。
当然、髪も乾いている。
この近辺に友達などいない俺であるからして、当然この処置をしてくれたのは……
「…ご迷惑をおかけしたようで」
「いいえ。困ったときはお互い様ですよ」
「分かりました。乙音さんは安心して倒れてください。俺が責任を持って着替えさせてあげますから」
ごす!
額に肘が落ちてきた。
「ばか」
頬をわずかに赤くしつつ、ようやく笑って乙音さんは呟いたのだった。

* 走馬灯?

私は年に2回ほど風邪を引き、そのうち4回に一回は高熱に発展するのです。
特に社会人をはじめた年は40度ほどになってしまい、自分自身で救急車を呼ぶという事態にまで。
今回も結構な熱が出まして、病床で様々な過去の記憶が見えてしまいました。
冷静に考えると、走馬灯ってあると思いますよ、いやマジ。
で。
記憶の中にはホントにどーでもいいもんがその大半を占めているわけで、ぼんやりとした意識下で展開されるそれらはしかし、今にして思えば「あれ?」なものがあったりします。
当時は気がつかなくても、ちょっと異なる見方ができる頃になって思いなおしてみると「ああ、そういうこと?」なのに気がついたり。
ただひとこと言えるのは、どんなに気がついたってそれは所詮は過去のことであり、今に反映されることではないということで。
そんなことを思った高熱下での私でした。
しっかし今回のは結構しぶといわぁ……

22th May/2005


出張先で風邪引いて寝込みました(翌朝にたいぶ復活)。
この時期は体質的に体調が弱るようです。
今週はあと一日……なんとかもてば良いなぁと思います。
さっさと寝るに限りますな!

19th May/2005


明日から出張です。
死なない程度に頑張ります。


「ところで亮クン」
「なんですか、乙音さん」
「今、上海では下着はファッションの一環として認識されているそうよ」
「へぇ、そうなんですか」
「うん、そうなのよ」
「だからといって、どうして俺が乙音さんの下着選びに付き合わされているのでしょーか?」
ここはとある有名デパート。
その3階にある婦人服売り場の一角は、様々な女性用下着が置かれている。
そんな場所に、何故か亮は隣人であるところの乙音に腕ごと捕まれて下着を物色するのに付き合わされていた。
「どうしても場違いだと思うんですけどね、俺」
「そんなことないですよー、ホラ」
乙音が指差すのは1組のカップル。
「ほら、あそこにも」
指先を変えれば、また1組。さらに1組と結構カップルがいたりする。
冷静に見渡してみると、亮&乙音のカップルが浮いているようなことはなかった。
「な、なんで……??」
「それはやっぱり、見る人が気に入る下着を直接選ぶからじゃないですか?」
「ああ、なるほど」
納得した亮。しかし、
「で、俺がどーして乙音さんの下着選びを手伝う羽目に? もしかして俺に下着姿を披露してくれるんですか?」
「へぇ、亮クン。私の下着姿、み・た・い・の?」
「いえ、遠慮します」
どす!
即答の亮に、乙音は無言でボディブローをかます。
「今回はね、『男として萌える』下着を選んでもらおうと思って、ね」
「はぁ、なんでまた……」
「昨日ね、雪音が『姉上は脱いでも色気ありませんね』なんていうから……だから今日は亮クンが萌えるようなのを買っていって見返してやるの」
「発想が子供ですね」
どす!
「さ、どんなのが萌えるのかな、亮クンは?」
ニヤニヤと微笑んで乙音は亮に迫ったのだった。
なお、亮が選んだ下着を身に着けた乙音はその夜、雪音に大笑いされたそうである。
雪音曰く、
「それ、亮お兄ちゃんに騙されているか、もしくは亮お兄ちゃんが特殊な趣味の持ち主ってことだよー」
とのこと。

* 若いうちが華だと思います

まだ大丈夫。
きっと大丈夫なはずだ!
まだ私の筆は死んじゃいないはずなんだ。

16th May/2005


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