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  誠よ、出会いとは運命なのだろうか?

何です? ファトラさん,急にガラでもないセリフを吐いて。

良いから答えよ!

…偶然でしょう? 運命なんて、起ってから生れるもんや。

ほほぅ。必然ではない,そう申すのだな。

故意に仕組まれたものであっても、それはそこに行着くまでが偶然やったはずや。

確率論か,お主らしいの。

理想主義者ではありませんからね。

そうか…では、別れは偶然なのか?

必然ですよ,出会いがあれば、必ず別れる時が来ます。

言い切るのぅ。

はい、人の命は限られているさかい。

どちらかが死ぬことで、別れとなる,そう申したいのだな。

ええ

しかし、お主はきっぱりと言い切るがそれを甘んじて受け入れることが出来るのか?

??

死に別れに限ったことではない。極めて親しい者が自分自身から離れて行く,
それを真っ直ぐに受け入れることが出来るというのか?

仕方のないことでしょう?

…お主は頭で分かっているだけなのだな,その場に立ったことがないから、そう思えるのじゃよ。

そうでしょうか?

そうじゃ。傍にいて当たり前,そんな者がある瞬間から消えてしまう、そして二度と会うことは出来ない,二度とじゃ。

その時の心にぽっかりと空いた空間,それはなかなか満たされるものではない。
それを満たしてくれるものはたった一つじゃ。

何でしょう?

出会いじゃよ。

…ウロボロスですね。

否定的に取るのぅ。
しかしな、別れることが辛ければ辛いほど、そいつと出会ったことは意味のあるものだと、お主は思わぬか?

そう、思いたいです。

良し、安心したぞ。

? どうしてファトラさんが安心するんです?

誠,お主はこれから命の尽きるその時まで、多くの者に出会うだろう。そして同じ数だけ別れがあるはずじゃ。
その中で辛い別れはいくつあるかは分からぬ。しかしな、別れを恐れるな,それはその者の為でもある。

はぁ? なんや、これでお別れのようなこと言いますね。

…想い出を忘れろとは言わぬし、思い出せとも言わぬ。決して過去に捕らわれるな。

今を精一杯、今、出会っている者と一緒に、心のままに感じるのだ。
それが去って行く者の望みでもあるし、結局の所はお主が相手に対してそう想うべきものだ。

返事は?

分かりました。

うむ! 安心したぞ。

だからどうしてファトラさんが安心するんです??

つまりは、そういうことなのだよ。

さよなら、じゃ。





Leaflet #3

今この時は、私のことだけを想ってはくれまいか?





 黒いスクリーンに文字列の複音ライブが交錯する。

 カチャカチャカチャカチャ…

 画面の前で、キーボードを高速で打つ男の姿があった。

 窓から差し込む血の如き赤き夕日,遮るもの無しにその真っ直ぐな光は男の背に刺さる。

 逆光。

 僅かに見える男の顔の輪郭が、笑みに歪んだように見えた。

 視点はスクリーンに切り替わる。




  ・
  ・・・
  ・・・・
  ・・・・・
  ・・・・・・

  スプーキー   < では強力な磁場が空間を歪ませるというのか?

  帝王      < そういうことだ。それは理論の上ではあやまりではない。

  アリス・リデル < 机上の空論ね。

  パワー     < 誤ったニュートン力学でも宇宙に飛び出せるんだ,よっぽど信用はおけるの
            ではないのか,アリス?

  アリス・リデル < 確かに…ね。帝王が送ってくれた自由意志型ウィルス『バグ・ロム』は理論を
            裏付けてはいるけど

  パワー     < いるけど?

  アリス・リデル < まだまだブラックボックスなモジュールが多いのよ。

  スプーキー   < アリスをしてブラックボックスか? 驚きだな。

  パワー     < 帝王,お前が本当に作ったのか?

  帝王      < 誰が作ったと言った?

  パワー     < 何だって?

  帝王      < 他次元から手に入れたのだよ,だからこそ、この理論を打ち立てることが出来た。

  スプーキー   < バカな…いや、しかし。

  パワー     < 嘘だろう? そもそもそのバグ・ロムってやらがそんなに凄いウィルスだっていうのか?  

  アリス・リデル < 夏の初め、情報結界都市・東雲のセキュリティシステムを破ったのがこれよ。

  パワー     < ?! 何だって?!

  帝王      < 東雲大学のセキュリティも乗っ取ったことがある、邪魔が入ったがな。

  スプーキー   < ということは、あの死の天使と一戦交えたっていうのはアンタか!?

  帝王      < 残念ながら負けたがね。

  アリス・リデル < …死の天使か。帝王,貴方の計画に協力するよ。

  パワー     < アリス?!

  スプーキー   < 私もアンタの言う装置を作ってみることにしよう,楽しそうだからね。

  帝王      < 感謝する。

  スプーキー   < パワーはどうすんだ?

  アリス・リデル < 逃げる?

  パワー     < ……仕方あるまい,実行型の俺がいなけりゃ、お前等のお祭りは成功せんだろう?
            協力しよう。

  帝王      < では、頼むぞ。必ずや、他世界をこの世界へ招くのだ!

  スプーキー   < やれやれ、今夜は徹夜だな。


  >>帝王がログアウトしました
  >>スプーキーがログアウトしました


  アリス・リデル > ゴメンね,パワー。

  パワー     > ? 何が?

  アリス・リデル > 無理矢理付き合わせちゃってさ。

  パワー     > 勘違いするなよ,俺の意思だ。ま、楽しくやろうぜ。

  アリス・リデル > そうだね。


  >>アリス・リデルがログアウトしました


  パワー     > ……そぅ、俺の意思だ。


  >>パワーがログアウトしました

  >>会議室#イリーガルコネクションは閉じられました


  ・・・・・
  ・・・・
  ・・・
  ・




 カタリ,青年はスクリーンの電源を切って立ち上がる。

 「フフフ…」小さく、彼の肩が震える。

 「フヒ…フヒャヒャヒャ、フヒャヒャヒャヒャ!!」

 部屋全体を揺るがすような甲高い笑いが、彼から発せられた。

 ガタリ,部屋への入り口が不意に開き、ボデイコンを着込んだ怪しい雰囲気の美女が入って来る。

 「どうしたのだ? 陣内殿??」彼女は爆笑を続ける青年に、不審の視線を向ける。

 青年・陣内 克彦はようやく笑いを止め、彼女に背を,沈み行く窓の外の夕日に向って右手を銃の形にして指差す。

 「さぁ、ゲーム・スタートだ!」



20 Cris Cross 了