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  夜陰に紛れて、彼女は目を光らせる。

  視線の先には高級マンションの一室,標的の少女がTVか何かを眺めていた。

  秋を含んだ風が、彼女の肩までの髪を軽く揺さぶる。

  隣接するビルの屋上から、見つめる先・マンションの5F部分までの距離はおよそ50m。

  右手に大きな杖の如き神具を持ち、彼女は風吹くビルの屋上から飛び…

  その足が、止まる。

  ヒタリ

  足音が、彼女の背後に聞こえる。

  ヒュゥン

  無視の羽音よりも小さな、飛来音。

  彼女はひらりとその場を高く跳躍した!

  ガサリ,ビルの屋上周囲を囲むフェンスの金網が、スッパリと彼女のいた部分が抜け落ちる。

  「邪魔だな」跳躍の後、給水タンクであろう,その上に着地した彼女は後ろを振り返る。

  ポニーテールの幼い少女だった。月明かりに、白いその肌が雪のように澄んで見える。

  「また、お前か」

  「また?」彼女の言葉に、ポニーテールは首を傾げた。

  ポニーテールの少女は、彼女をまじまじと見つめて、呟く。

  「知らないわ。貴方が暗殺者でなかったら、好みのお姉さんなんだけどね」

  少女の指先から、僅かに光が漏れたように見えた。

  瞬間、給水タンクが縦二つに破裂した!

  暗殺者の彼女は、しかしその瞬間にはフェンスの上に立っている。

  「極細のワイヤー,厄介なものを使うな」苦笑。

  「お褒めの言葉をして受け取っておきますわ,イシエル=ソエル」

  対して額に汗しながら、ポニーテールは両手を振る。

  バキン,ベキ!

  イシエルのいた空間に、破壊の斬撃が飛来する。

  だがそのことごとくは、虚しく空を切るばかりだ。

  「スジは悪くない」

  ヒラリと避けながら、イシエルは神具を軽く横に凪ぐ。

  光の粉が、散ったように見えた。それは月明かりを反射したものであろうか?

  途端に、冷たい灯かりに晒されていたビルの屋上は、暗黒の支配する空間に変貌する。

  「?!」

  あとずさるポニーテールの少女。

  ボゥ

  すぐ目の前に、イシエルの姿が淡い光に包まれて現われた!

  「くっ!」

  右腕を振り上げる少女,不可視の斬撃がイシエルを包み、そしてまるで煙を散らすように彼女の映像は消えた。

  「あと5年,それだけあれば私を越えたよ,お前」

  イシエルの声が響き、同時に岩の杭がポニーテールの少女を貫かんと虚空より生ずる!

  「これがイシエルの…?!」

  驚愕に動けない少女と、迫り来る凶器の間に小さな影が割り込んだ!

  ギィン!!

  耳障りな音と伴に消え去る岩の杭。

  少女は我に返った,そして目の前の彼の姿に安堵と怒りを露にする。

  「パルナス,遅かったじゃないのさ!!」

  「ゴメン、姉さん。でもこの前は僕一人で何とかしたんだよ」

  「アンタは男の子でしょ!」

  「そういう問題じゃないような…」

  少女と同じ姿をした少年が、彼女に寄り添うように立っていた。

  そう、この2人は…

  「双子か…」イシエルの声。

  「この先は行かせないよ、イシエル。ロシュタリア御庭番・レレライルの名にかけて」

  暗黒に向って告げるパルナス。

  「ほぅ,王族直属の護衛家か。噂だけの存在かと思っていたが…面白い!」

  グゥン!!

  空間の軋む音。

  大きいもの、小さいもの,無数の岩の杭が2人を瞬時にして囲み、そして襲い掛かった!!

  「僕に幻は効かない!!」

  パルナスは叫び気合一閃,片手に短剣を3本、両手で6本を構え、四方に投げ放つ!!

  カチィィン!

  金属音の連続。

  「はぁ!」パルナスの腹の底からの息吹に、岩の杭はおろか、空間自体が消え去った。

  カラン…

  幾本かの2種類のナイフが、コンクリの床の上に転がっている。

  幻の岩の杭に重ねあわせる様にして幾本かをイシエルが投げ放ったものを、パルナスが迎撃したのだ。

  イシエルはしかし余裕を込めて、パルナスとアレーレを見つめる。

  「薬に対する耐性ね。でもそっちのお嬢ちゃんにはないみたいねぇ」

  「うるさいわね!」怒りを露わにしてアレーレは左手を振る。

  バキン,アレーレの放ったワイヤーで、イシエルの目の前のコンクリが弾け飛ぶ。しかし暗殺者は動かない。

  「幻術抜きで、戦ってあげるわ,久しぶりに」

  嬉しそうに、イシエルはその長身を夜空に躍らせた。

  アレーレ,パルナスもまた身を構え直す!

  パルナスが、短剣を構えた右腕を振るう,冷たい光を照り返し進むその牙は、蒼き暗殺者の着地地点へとその顎を開く。

  同時にアレーレもまた切断の糸をナイフに沿うように瞬時に張り巡らした。

  空中にて、しかしイシエルは唇の端を釣り上げる。

  手にした奇妙な杖,神具をコンクリートの着地点に向けて振り下ろす!

  コゥ!!

  見えない圧力が、波紋となって同心円上にイシエルの着地点を中心に広がる。

  短剣は叩き付けられるように床にめり込み,ワイヤーが風化したように粉々に吹き飛んだ!

  「クッ!」

  「何よ,これ!」

  襲い来る余波をその身に受けながら、2人の双子は平然と降り立ったイシエルを見つめる。

  余裕の笑みを浮かべる暗殺者。

  彼女はノーモーションのまま、杖で床をコツン,叩く。

  「!? 危ない,姉さん!!」

  「?!」パルナスは背筋に走った寒いものに従い、姉を抱いてその場を飛び退く!

  ガガン!

  炸裂音。同時に、2人のいた床は崩壊する!

  「何よ,アレは!!」抱かれたまま、アレーレはそれを目にする。

  イシエルとの距離は10mはあった。それなのに沸き上がるように電光を伴なってコンクリの床が瓦解したのだ。

  「避けたね,でも次はどうかな?」

  暗殺者の抑揚のない声。パルナスはアレーレの手を引いてその場を再び飛び退く!

  ガガン,ガン!!

  イシエルは床を叩くたびに、電光を伴なった床の自己破裂が発生する。

  「姉さん、あれは一体?!」逃げながら、彼は手を引く彼女に尋ねた。

  「…暗殺者イシエルのもう一つの呼び名は?」

  「…地の神官?」

  「そうよ、あいつは地電流を操れるのよ,多分…あの杖でね!」

  「御名答」ニコリとイシエルは微笑んだ。

  「それに気付いても、貴方達はここで死ぬわけだから、意味はないね」

  パルナスはナイフをイシエルに向って投げる!

  しかしそれはイシエルが軽く一歩横に動くことで、フェンスの向こうへと消える。地面へと弧を描いて落ちて行ったに違いない。

  「姉さん!」

  「OK!」クィっと、アレーレは右手を動かす。何かの手応えが、気付かないほどの僅かな感触があった。

  「READEY?」

  「GO!」

  2人は方向反転,イシエルに向って駆け出す!

  「? そろそろ消えなさい」

  コツン,イシエルは杖で床を突く。

  「え?!」

  電光が走る,彼女の背後に向って一直線に!

  神具には細いワイヤーが絡み付いていた。そのワイヤーの行く先は…

  「さっきのナイフか!」

  「全く以ってご名答!」

  パルナスの投げナイフが4条の光となって暗殺者を襲う!

  先程苦し紛れに放った様に見えたナイフ。その塚にはワイヤーが括り付けられ、そのまま大地に落ちて突き刺さったのだ。そしてそれはアースとして機能する。

  「ちぃ!」

  ナイフをイシエルは神具で叩き落とす。

  「させない!」アレーレの声に、神具の動きが一瞬止まる! 絡まったワイヤーがピンと張っている。

  「?! クッ!」

  イシエルの肩口と脇腹に、ナイフが突き刺さる!

  「とどめ!」

  パルナスの力投,イシエルはしかし神具でそれを叩き落とす!!

  ガキィィン!!

  「んな!!」叫ぶイシエル。

  神具が瓦解音を立てて、その頭の部分が砕け散った。ナイフの当たり所が悪かったのか…

  半ば呆然とした彼女の背に、熱いものが駆け抜ける!

  「そんなものに頼ってるから、命を落とすのよ」背後からのアレーレの声。

  イシエルは赤い塊を口から吐いた。焼け付くような背中の痛み,おそらくアレーレのワイヤーによって切り裂かれたか…

  月明かりの下、ガクリと膝を付いたイシエルは不意に影に入った。

  口を押さえながら障害物を見上げる暗殺者,目の前には、冷たい目をした少年の姿。

  「僕の名はパルナス,初めまして」

  キラリと彼の手の中が光る。

  「残念だけど…さよなら」

  振り下ろされる死の刃!

  が、それは銀の飛沫となって粉々に夜の空に返って行った。

  「グゥ!」

  右手を押さえ、その場を飛び退くパルナス。赤い雫が、床のコンクリに吸い込まれて行く。

  「何をやっているかと思えば…情けないのぅ,イシエル」

  「アルージャ!」イシエルはだが、目の前に立った小柄な老人を忌々しげにねめつけた。

  「人の仕事に、手を出すんじゃないよ…」

  その間に、アレーレとパルナスはお互い背を合わせて対する2人に先制攻撃!

  パルナスのナイフが6本,老人に向って飛ぶ!!

  老人は小さく鼻で笑うと、己の身長よりも高いひしゃげた木の杖を的確に振るう。

  ガキガキガキ!

  ナイフが全て、無駄のない動きで弾き飛ばされ…

  「えい!」

  アレーレが両手を複雑に動かす,すると軌道変更したはずの6条のナイフは奇妙な軌跡を描いて再び2人に襲い掛かった。

  「ほぅ,確かに良い腕をしておる。惜しむらくは…」

  呟きながら、老人・アルージャは再び杖を振るった。

  パキィィン!!

  澄んだ音を立てて、全てのナイフが登場した時と同様に粉々に砕かれ、消え去る。

  「…まだ若く経験が浅いということだけじゃ」

  老人の目が、怪しく光る!

  同時に小枝のように細い両手を複雑に動かした。

  「ああ!!」青い顔で叫ぶはアレーレ。

  次の瞬間、2人の双子は音もなく全身を切り裂かれてその場に折り重なるように倒れ込んだ。

  「己の武器を取り上げられることもある,高い授業料じゃのう」妖怪を思わせるようなアルージャの微笑み。ゆっくりと止めを刺さんと腕を振り上げる,張り巡らされたワイヤーが軋む。

  「これ以上、ぼったくられませんことよ」邪気を払うような凛とした声が、通用口から響いた。

  アルージャは振り上げた腕を止め、視線を向ける。

  青い長い髪を頭上で括り揚げた女性,30代になったばかりであろうか、少女にはない色香を身に纏っている。その白く整った面には、強い意志を湛えるマリンブルーの瞳が老人を睨み付けていた。

  「何者じゃ?」

  「その子達の保護者,ですわ」

  「…躾がなってないのぅ」

  「『ワンパクでも良い,逞しく育って欲しい』っていう名文句、知りませんこと?」

  「日本のことは疎くてな。よもやお主がここに絡んでこようとはのぅ,ミーズ…じゃったな?」アルージャのその言葉に、女性・ミーズ=ミシュタルの眉が僅かに吊り上がる。

  「見かけに依らず随分と情報通ですのね?」

  「腕利きの噂には広く見聞を持たねば、この歳まで生きてはおれぬわ」

  「腕利きの美女,の噂でなくて?」

  「自意識過剰は命を落とすぞぃ」

  「あら、言いますわね?」

  ガッ!

  「「??」」

  何かを叩き付けるようなそんな音に2人は発生源を睨む!

  イシエルが、壊れた神具を床に叩き付けていた。

  「んな!」驚愕のアルージャ,その間を狙って、ミーズは2人の双子を奪取!

  同時に黒煙がイシエルを中心に発生した。

  「今は…退いてやる…」弱々しい、イシエルの声。

  「イシエル! ワシを置いて行くつもりか…ぐぁ!!」アルージャの叫びが、それに続いた。

  発生した時と同じように、黒煙は瞬時によるの風に散って行く。

  後には壊れた神具の中で膝を付くアルージャの姿。イシエルの姿はない。

  そして老人のその腹から、どす黒い血が一本のナイフを伝って漏れていた。

  「同志撃ち??」訳が分からずミーズ。

  「イシエルめ…」

  アルージャは忌々しげに唾を吐くと、そのままフェンスに向って駆け、その向こうへと飛び降りて行った!

  「んな!!」

  ミーズは慌てて老人の身を投げた所へと走る!

  見下ろす彼女。

  しかし数十m遥か下のアスファルトには、老人の姿もイシエルの姿も、何も見つけることは出来なかった。

  「…厄介な相手ね」ミーズは大きく息を吐いて、後ろの2人に振り返る。

  2人の双子の傷は多く重傷に違いはないが、傷が多い分、拡散的な攻撃だったらしい,致命傷はないのが幸いだった。

  「しばらくは絶対安静…ね。藤沢様とのデートもキャンセルしなきゃ」がっくりと項垂れ、ミーズは2人に歩み寄って行った。

  遠くから、パトカーのサイレンが近づいてくる。




  イフリータは庭を一人歩く。

  庭の隅に立つ梅の木。その葉は赤く染まりつつある。

  芝生にしても、雑草にしても、その身に種を抱えていた。すっかり季節は夏から秋へと移りつつあるのだ。

  「やっぱり誠がいないと…寂しいものだな」

  一週間前まで、いつものように彼女の心許せる人がいた。

  それに慣れた頃、半日は離れるという元の状態に戻ると、それは前には感じ得なかった苦しみが生れる。

  「はぁ…」

  そんな気持ちを心の奥に押し込め、彼女は梅の葉に触れた。

  「うう…」

  「?!」

  うめき声に、イフリータは視線を移動!

  家の裏口,丁度陰になったところに人影のようなものがしゃがんでいるように見えた。

  恐る恐る近づく彼女。

  と、その姿を確認して、イフリータは慌てて駆け寄った。

  「お、おい! 酷い怪我じゃないか! すぐに救急車を!」

  家の壁に身を預けるようにしゃがんでいたのは蒼いショートカットの女性。イフリータよりも少し年上であろうか? しかし彼女の恰好は変わっていた。タイトなボディスーツにプロテクターのような肩当て、胸当て。

  そして肩口と脇腹からは血がじわじわと今でも溢れ出していた。

  しゃがんでから、再び立ち上がろうとするイフリータのその腕を、怪我人はぎゅっと掴む。

  「?!」

  「呼ばないでくれないか…」消え入りそうな声で、彼女は言った。

  イフリータを見上げる彼女の瞳の光は今にも消え入りそうだ。

  「…分かった。とにかく家へ入ろう。名は?」

  「…イシエル」

  「私はイフリータだ」

  イフリータはイシエルを引き摺るように、半ば無理矢理背負うと、家の中へ招き入れた。




  あっという間に過ぎ去った夏休み。

  爽やかさすら感じる秋の涼風が教室内を駆け抜けて行った。うだるような暑さは、もうない。

  放課後の教室。しかしここにクラスメートはほぼ全員残っていた。

  「シェーラ? ベニア板が一枚足りないわよ」クァウールさんの声が、騒がしい教室の雑踏中で聞こえてくる。

  「ああ、それは今、尼崎の奴が持ってくるよ」

  東雲祭。

  東雲大学と合同で行われる秋の祭典,いわゆる文化祭だ。今僕達はその準備で追われている。

  シェーラさんの提案でクラスでの出し物を出展することになった僕達が手がけるのは…

  「で、クァウール,そっちは出来たのか?」

  「ええ」

  クァウールさん他数名で作っているのは看板。

  彼女の達筆で書かれた横に長い画用紙には大きな字でこう書かれている。

  『喫茶 フリスタリカ』

  そう、ありがちな喫茶店になるところではあった。

  2日前のことである。



  「普通の喫茶店では、インパクトに欠けるのではないか?」

  学級委員長・陣内は黒板を背に、決定した項目をチョークで叩きながら教室を一望して言った。

  「…なら、男子がウェイトレスやるってのはどう?」女子の一人が、そんな事を呟く。

  「仕方ねぇ,この尼崎、一肌脱ごうじゃ…」

  「気色わりぃんだよ!」

  鉄拳制裁 By シェーラさん

  「でも、面白いんじゃないですか? ねぇ、誠さん?」とんでもないことを言い出すクァウールさんは僕を見つめて言い放つ。

  教室はその一言に沈黙。

  何故か僕はその時、多くの視線を感じた…

  「水原君かぁ」

  「誠なら…似合うかもな」

  「D組のファトラさんにそっくりだからなぁ」

  「女子もウェイターやればおもしろいじゃねぇか」

  「クァウールさんがか?」

  「シェーラさんだよ,なんかヅカ系似合いそうじゃん」

  そんな声があちこちから漏れ出した、そうして…

  「仕方ねぇ,この尼崎、一肌脱ごうじゃ…」

  「気色わりぃんだよ!」

  鉄拳制裁 Part.U By シェーラさん

  男女逆転の喫茶店が企画されたのである。



  「何でこないなこと、なってしもうたんやろ…」

  「誠、このベニヤ板、ちゃんと切ってくれよ」畳大もあるそれを教室に入れる尼崎は、僕にそう告げた。

  「ああ、そこ、置いといてくれへんか?」

  東雲祭まであと一週間。

  出来れば今年はすぐにでも過ぎ去ってもらいたいものだ,僕は思う。

  「ふぅ」

  顔を上げ、首をまわす。

  ふと視線を窓の外にやれば、学校の裏山の木々が紅葉づいて来ているのが分かる。

  頂上の桜の木が、一際大きく風に吹かれたような気がした。

  そしてその時、妙にたくさん葉が散って見えたような気がする…




  タタタッタタタッ

  軽快な音を立てて、アフラはキーボードを叩く。

  彼女の目の前に据え付けられた21インチ液晶ディスプレイに下から上へと文字列が延々と流れて行く。

  ピタリと、その流れが止まった。

  アフラは羅列された文字列,詳しい者ならば分かるであろう、幾千ものファイル名の中から一つを選び、タイプする。

  play max r -a f:\call\toutyo\199999.wav

  ザザッ

  モニター横のスピーカーからくぐもった雑音のようなものが聞こえてきた。

  「失敗した、だと?」

  若い、男の声だ。

  「申し訳ありません、私自ら出向き始末致します」

  こちらは、子供の声に聞こえる。しかしその声の持ち主を、アフラは知っていた。

  「所詮は卑しい暗殺者集団,弱者しか標的に出来なかった様だな」

  「王族となると肝が縮んだということでしょうね」

  「ふむ…では今度はしくじるなよ。最後のチャンスをやろう」

  「はっ! ガレス様の為ならばこのナハト、命に代えましてもファトラ姫をこの世より抹殺致しましょう」

  ザザッ…プッ!

  file end mission succesful

  そんな文字が現れ、音声再生は終了し、カーソルがモニター上で点滅する。

  「…ついに尻尾を掴んだわ」背もたれに身を預け、アフラは不敵に微笑を浮かべた。

  「ウチに距離感はないんどすぇ,ガレスはん。油断しましたな」

  獲物を狙う肉食獣のような冷たい光をその瞳に宿し、死の天使は含み笑いを漏らし続けた。


21 胎動 了 



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