Diary
|
メルメルメー?! ダメだ、ウマゴン。オレはもぅ、心の力が尽きたよ…… 【更新】雪音の7月分をば。 30th June/2005 暑い日が続きますね。 七夕も間近とゆーことで、織姫と彦星っぽいお話でも――― 私は目を覚ます。 ぼんやりとした意識は次第と形を成し、視界に映る景色が瞳に焦点を結ぶ。 今日も7月7日。 私が目覚めることを許された唯一の日。 そして私の目の前にはいつもあの人がいる。 少し寂しげな笑顔を浮かべた大切な人。 私は彼に逢うために、一年のこの日に目覚める。 彼女は病に犯されている。 今の医学では治癒できない病だ。 しかし近い未来、必ず治すことができる。 だから彼女はその未来が来るまで、眠りに就く。 新陳代謝を極限までに落とした眠り―――コールドスリープだ。 来るべき未来までずっと眠り続けるのかというと、そういう訳ではない。 肉体の劣化を避けるために、一年に一度、それも一日だけ目覚めなくてはならない。 今日はその一年で彼女が目覚める日。 7月7日だ。 「おはよう」 私の変わらぬ声に彼は小さく頷いて応えた。 「おはよう」 その彼の声は先日聞いた声よりも少し大人びいて聞こえた。 きっと彼女は、この僕との出会いは昨日のように感じていることだろう。 そして一年後の出会いは、明日のように感じることだろう。 彼女にとっては一年は一日と同価値だ。 だが僕にとっての一年は、彼女の365倍だ。 彼女の病を治すため、僕は医者の道を歩んだことを告げた。 彼は医者になっていた。 そして私の手を強く握ってこう言ってくれた。 「必ず、この手で君の病を治してみせる」と。 私は「お願いね」とだけ答え、しばしの彼との談話を楽しむ。 彼との時間はあっという間。 日はいつしか傾き、辺りは夕闇に包まれる。 空には瞬く天の川。 時間、だ。 一年という長い眠りは、私にとっては一晩にしか感じられないけれど。 けれど、短いようで長い眠りだと思う。 彼女は再び眠りに就く。 まだ僕の知識では、現在の医学では彼女を癒すことができない。 「必ず、必ず直してみせる」 冷たく眠る彼女の横顔に、そう誓う。 私は目を覚ます。 何度の7月7日を経験したことだろう。 1日1日は大切で、それでいてまるで昨日のことのように感じていたはずなのに。 今日も、昨日の目覚めが思い出せない。 ぼんやりと、意識に白い靄がかかっているように感じる。 私の目の前でいつもと同じ微笑を浮かべる男性。 彼は、誰? けれど私は彼の笑みを見つめるだけで、心落ち着き、私もまた笑みを作ることができる。 医学の進歩、いや人類の技術の進歩というものは、思った以上に歩みは遅いようだ。 未だに彼女を救うことができない。 すでに彼女は長期間のコールドスリープにより、記憶に障害が出始めてしまっている。 だが俺は諦めない。 彼女を救うことこそが俺に課せられた使命。果たせなかった父の夢であるからだ。 その日の目覚めは快適だった。 すべて頭の中の靄が取り払われ、目の前の霧が一気に晴れたような感じ。 体を覆っていた倦怠感と鈍痛もまた完全に消えてなくなっていた。 「おはよう」 『変わらない』笑みで、『彼』は言う。 「おはよう」 私もまた、変わることのない笑みで応えた。 「そしておめでとう。今日で君はもう一年を眠ることをしなくて済むんだ」 私の手を取りながら、彼は言う。 「それって」 「治ったんだ、君の病は」 その言葉に、私は一つの事実に気付いた。 ボクにとっての七夕は、父と爺さんに病院に連れられていく思い出で占められている。 病院では一人の女の子が眠っているのだ。 その子は重い病にかかっており、今の医学では治すことができない。 いつか治療法の見つかる未来まで、眠り続けなくてはいけないのだという。 ボクは眠り続ける彼女の美しい横顔を見つめながら、父や爺さんと同じく誓ったんだ。 「必ず、この手で君の病を治してみせる」、と。 「私は、いくつの夜を過ごしたの?」 私の問いに、白衣の彼は口を閉ざす。 私は病室の窓を開ける。 空を、天の川を見るために。 しかし、そこには。 「……え」 窓の外は見渡す限りの光の洪水。 いえ、これは未来都市?? 空はなく、いつまでもどこまでも光の漏れる窓が上と下に続いていた。 私の中で、気付いた事実が大きくなっていく。 「そう、なのね」 事実が口をついて漏れる。 「全ては変わってしまった。変わらないのは私だけ、なのね」 急速に視界が涙で歪む。 「この世界には、すでに私の知っているものは何もないのね」 彼女は涙ながらに呟いた。 「私の刻は止まっていて、けれど回りは動いていたから。何もかも変わってしまって、私は一人、残されてしまったのね」 「違う!」 ボクは彼女を強引にボクに振り向かせる。 その細い肩をしっかりと掴んで、ボクは決して変わらなかった事実を告げた。 「ボクも、父も、そして爺さんも、ずっとずっと変わらずに持ち続けたモノがある」 彼女は小さく震えつつ、それは何?と問うた。 それは、 「必ず、ボクのこの手で君の病を治してみせるという想い、さ」 私の愛した人と同じ瞳で、彼の孫はそう言った。 いくつもの夜を重ねても変わることのできなかった私は、いくつもの夜を重ねても変わらなかった想いを受けて。 凍結した7月7日は解け崩れ、今ここに刻が動き出す。 * 君の願い事は? まぶらほ最終回。 録画して観たのですが……なぬ! 最終回は一時間スペシャルだったのかっ! ぎぁぁぁぁぁぁぁ!! 最終話が撮れてねぇぇぇ!! ここに一匹、血の涙を流した鬼が生まれたといふ。 ちょっと寄り道しすぎたようなので、そろそろ気合を入れてケリをつけたいと思います。 28th June/2005 体力と精神力の消耗具合が激しい一週間でございました。 さて、久々の今日は乙音さんのお話――― 「姉上、どうしてウチにはクーラーが無いの?」 「それはね、雪音。夏を堪能するためよ」 「買う予定は無いの?」 「無いわよ」 にっこりと返ってくる笑みに、雪音は声を詰まらせる。 決して『お金が無い』&『電気代が大変だから』であることは口にしない乙音である。 「だって、だって暑くないの?」 「暑いわねぇ」 「例え家の中とは言え、下着でうろうろしているのはどうかと思うんだけど」 「特に見られて困る相手なんていないじゃない」 「……例えば、亮お兄ちゃんからの突然の訪問とか」 「いくら亮クンでも、ちゃんとノックくらいはするわよ」 「こんにちわー」 玄関からの声とともに、 ガチャ 扉が開く。 「田舎からスイカが大量に送られてきたんでおすそ分けです」 手にスイカを持ったまま、目を点にしてたたずむ亮。 視線の先にはタオル片手に汗を拭く、下着姿の乙音とタンクトップの雪音。 「カッ!」 一瞬の硬直の後、乙音が武道家のごとき裂帛の吐息をついて亮に向かって駆け、 「斜め45度のアッパーカットっ!」 ごす! 「げふっ!」 宙を舞う亮とスイカ。 乙音は華麗な体捌きをもって片手でスイカを受け取った。 どしゃぁ! 地に伏す亮と、技が決まりポーズを取るスイカ片手の乙音。 それを熱気の中でぼんやりと見つめていた雪音はボソリと一言呟いた。 「せめて少しは恥ずかしがるくらいしないと、マジで嫁の貰い手ねーよ?」 というか、ヒロインたる自覚を持って欲しい。 * ヒロイン……だったか? 暑いですね。 クーラーの試運転を始めました。黒い灰は降らずに一安心。 クーラーを効かせた部屋で、久々にヘルシングコンテンツの更新。 とは言っても、クイズをちょっとですが…… 【更新】ヘルシングクイズを20問追加しました。 25th June/2005 本日はセリカSS-Tの納車日でした。 色が黄色の為にすごい目立つ。日光の反射もまぶしい。 なお、これまでは同じトヨタのマリノだったのですが、今回のセリカはほんの少し排気量が上がっております。 エンジン音は良好。良い感じです。 早速運転。どうも車両感覚が掴みづらい。 特に後部と、右前部分がどの辺が限界であるかなんてのが分かりにくい。 慣れるまでちょいと時間かかりそう。 ちなみに屋根前方に一本、アンテナがついておりまして、風にみょみょみょんと揺れます。 ………貴様っ、車のくせに触覚キャラのつもりかっ!! 1人ツッコミ。 さて、今日は乙音さんのお話でも――― 「亮クンは携帯電話はどこのメーカーを使われていますか?」 そう乙音さんが尋ねてきたのは、たまたま駅からの帰り道が一緒になった道すがら。 「俺はWILLCOMですけど」 「PHSですか、また妙なものを使ってますねぇ」 「妙じゃありませんよ。俺のはブラウザ搭載してますし、インターネット定額ですから。最近は流行ってるんですよ」 「そうなんですか?」 「そうですよ。それに同じWILLCOM同士なら定額で通話し放題、ってのもありますし」 「へぇ」 しかしあまり乙音は関心がないようだ。 「乙音さんはどこの使ってるんですか? ドコモですか?」 「私はAUですよ。なんとテレビも見れちゃうんです」 えへんと胸を張って乙音。なにも彼女が偉いわけではないが。 「テレビだったら家で普通に見れば良いのでは?」 「あぅ、そ、それなら亮クンもインターネットなら家でやれば良いじゃないですかー」 そして二人は互いに顔を見合わせ、 「「ツーカーの『話せるだけ』のタイプでも良いかもしれませんね」」 乾いた笑いで答え合ったのだった。 * それぞれの矜持が必要です ちなみに私はWILLCOMです。 それはそうと、藤ゆたかさんから稲荷話のイラストを頂きましたよー♪ 丁度最後のシーンですね。 ![]() 可愛すぎるぜ、コンチキショー!! ナイスなワンシーン、ありがとうございました。 これを契機に稲荷話およびその他をまとめなおしてUP致しました。 腰を落ち着けて読んでいただけると幸いです。 【更新】シリーズ『稲荷Confidences』を完結 【更新】シリーズ『風の王国』を編集/完結 【更新】シリーズ『若桜姉妹の憂鬱』の5話をアップ 【更新】守護月天SS『虎賁’s ブログ』をアップ 19th June/2005 常連の皆様。長い間のお付き合い、ありがとうございました。 稲荷話の最終回です。 クリーニングしたてのYシャツを着込み、慣れない手つきで僕はネクタイを締める。 スーツの色は就職活動の時に活躍した紺色。 袖を通す。どことなく身が引き締まる思いがした。 「よし!」 ぱん、と頬を軽く両手で叩く。 今日は初出勤。未知の社会への旅出に僅かな緊張がみなぎっていた。 ふと、視線を窓の外へ向ける。 桜の花びらが風に吹かれて散っていた。アパートの庭にあった桜の木だ。 「さて、行くか」 時間は所定の時間より1時間ほど早い、が。 僕はカバンを持ち、玄関へ。 真新しい革靴に足を通した...... 季節は巡り4月。 無事就職することができた僕は、この春から社会人の仲間入りだった。 仕事は大学時代から興味のあった分野に就くことができたのが満足なところだ。 しかし希望した会社は他県であったため、僕は就職が決まるや否や引越しすることとなった。 もっとも僕の現在の経済力では、引越し前のアパートも引越し後のこのアパートも、レベルがさっぱり変わらない。 唯一の違いといえば、このアパートの管理人は旅行好きの、結構な変わり者であるということくらいか。 ともあれ僕は大学を卒業し、このアパートの一階に引越しを終えた後、4月の今日を迎えるまで旅行に出ていた。 特に目的のない、青春18切符を用いた電車の旅だ。 いや、目的がないわけではない。 あれは去年の梅雨を前にした時期。 僕の心の中に大きな位置を占めていたモノが、ごっそりと抜け落ちた感覚に陥った。 それは今でも続いている。 だが、それまで何が僕の心にあったのかも分からない。 僕にとってはとてもとても大切なモノだったはずだ。 決して忘れ得ぬものだったはずだ。 忘れるはずがない、そんな大きな存在だったと漠然と思う。 思うだけで、当然そんな存在などはなく、単に僕の心が不安定なだけなのかもしれない。 何かも分からないまま、それ故に常に自分自身に苛つきを覚えつつ、今に至っている。 旅をすることで、自分自身が未だ経験したことがないことを目にし、耳にすることで、その穴を埋めることができるのではないか? だが、埋めることはできなかった。 僕は一体何を忘れているんだろう? 僕は一体何を求めているのだろう? 桜舞う大学の校舎。 新入生にぎわう中庭を歩きつつ、私は一人思う。 新学期。 当然、先輩はいない。 去年の夏前にカノジョといつの間にか別れたらしく(訊きにくいので訊いていないけれど)、フリーになっていたのをいいことに何度かアプローチをしたのだけれど、結局私に振り向いてくれることはなかった。 気持ちは、今となってなんとなく分かるようになった。 何故なら今年入った研究室の後輩が、私に気があるらしいのを感じるからだ。 私は後輩である彼を嫌いではないが、好きでもない。 せめて「眼鏡っ娘、萌え〜」とか言うのはやめてもらいたい。 そんな程度。 そうそう、先輩がカノジョと別れた頃、私の飼っていた犬が逃げた。 いや、言葉はおかしいかもしれない。 もともと世話はしていたが、飼っているつもりがあまりなかった。 あの犬は長い旅の途中で、私の家でしばしの休息をとっていた、そう思っている。 そしてきっと、また私の元へ戻ってきて休息していくような気がする。 だから我が家にはまだ彼の小屋が残っている。 「わん」 そんな犬の鳴き声が唐突に後ろから聞こえた。 振り返る。 「まったく」 思わず、声に出た。 「おかえり」 薄い色のついたサングラスをかけた彼女はJAGUAR XKR Convertibleで高速道路を飛ばしていた。 アクセルを踏むたびに、黒い彼女の髪が風になびいて後ろへ流れる。 『いいのか?』 彼女の口から彼女ではない声が漏れた。 「なにがです?」 澄ました声で彼女はその声に問う。 『妹と、あの男じゃよ』 「問題でもありますか?」 『ないのかの?』 「ありません。全ての経験と記憶を失った妹は、一から稲荷の初級修行を積まねばなりませんから」 『人間界を学ぶためにあのアパートの一室をあてがったと?』 「賃料が安かったですし。その隣の部屋に『彼』が入居するとは思ってもいない偶然でしたね」 『偶然、かな?』 「……先生、『縁』というものは、なかなか切っても切れないものなんですよ」 『お主と彼との『縁』はないと?』 彼女はアクセルをさらに強く踏む。 加速に伴うGが、彼女をシートに押し付けた。 「どうでしょうね、それこそ縁があれば」 口元に微笑を浮かべ、彼女は答える。 JAGUAR XKR Convertibleは車の少ない高速道路を突っ走っていった。 がちゃり 僕は玄関の戸を押し開ける。 ごす 扉を押す手に、質量を感じた。 直後、重たい音が扉を挟んだ向こうで聞こえる。 「?」 扉越しに見ると、額を押さえてしゃがみこむ少女の姿があった。 ダンボール数箱を重ねたものを傍らに、ぷるぷる小さく震えている。 「どうかしましたか?」 問いかけに、彼女は僕を見上げた。 可愛らしい女性だった。いや、雰囲気的には少女と言っても良いかもしれない。 色素の薄めなショートカットの髪の間に覗く瞳は涙が溜まり、僕を恨みがましく見つめている。 白い額がちょっと赤く染まっていた。 僕が首を傾げると、彼女は僕の開ける玄関の扉をまず指差し、次に己の額を指差した。 「痛いです…」 「あー、以後気をつけます。ごめんね」 と、僕は気付く。 隣の部屋の扉が開いていることを。 そして玄関前にはいくつかのダンボール。 「あ、もしかして今日新しく入る入居者の方?」 「あ、は、はい」 僕の差し出した手を掴み、空いた手で額をさすりながら少女は立ち上がる。 キラリ 朝日を照り返して一瞬、光が僕の目を射抜いた。 思わず目を細める。 光の正体は、彼女の首にかかったネックレス。 細い銀のチェーンの先端には青い宝石のはまった銀のリングが……ついている? ズキン 心の奥が、何故かうずいた。 「なんで指輪を首にかけてるんです?」 思わず出た言葉に、少女は戸惑いながらも「えっと」と答える。 「サイズが大きくて」 「貰いものですか」 「はい、多分」 「多分?」 「えーっと」 ちょっと困った顔で彼女は僕の問いにちゃんと答えてくれた。 「色々ありまして私、ちょっと記憶が抜けてしまってるんです。これはそのころ私が大事にしたものらしいんですけど」 「へぇ」 「やだ、なんで初めて会う人にこんなこと話してるんですかね、私」 改めて彼女は僕を見て、何故か頬を赤らめて俯いてしまう。 「ごめん、僕が変なことを訊いたばっかりに」 「い、いえ。あ、あの、お隣さん、になるんですよね?」 おずおずと彼女は尋ねる。 「そうだね。もっとも僕もこの春に引っ越してきたばかりだけどね」 「そうなんですかぁ。でもなんかちょっと安心しました」 ほっとした可愛らしい顔に笑みが広がった。 ……あれ? どこかで 「私、一人の生活って初めてでちょっと不安だったんですけど、同じような人が近くにいるとなんか安心できますね」 あー、僕はここに来る前も一人暮らしだったんだけど、と言う機会は失われてしまっているようだ。 何はともあれ、 「そっか。お互いがんばろうね、よろしく」 言って僕は握手のために右手を差し出した。 「はい! よろしくお願いします!」 元気良く、彼女は僕の手を握り返し、 「……あれ?」 不意に彼女の白い頬に涙が伝った。 「え?」 何かまずかったのかと思い、僕は手を放そうとするが彼女はしっかり掴んで放さない。 「あれあれ??」 当の本人が困惑しているようだった。袖で涙を何度もふき取るが、止まらない。 「えっと……どこかでお会いしたことありましたっけ?」 涙目で問う彼女に、僕は首を横に振りかけて、 「どう、だろう??」 どこかで会った事がある気がする。 それがどこだか分からない。 けれど、 けれど悪い思い出の中には出てこないと思う。 思い出せない……それならそれで良いんじゃないかな。 だって、 「前にどこかで会っていたとしても、今日出会えたんだからそれで良いんじゃないかな」 彼女は僕の言葉に一瞬目を白黒させ……そして笑顔に。 「それもそーですネ!」 そんな彼女に僕もまた笑って自己紹介。 「初めまして、僕の名は―――― BGM / Forever...(savage genius) * そして2人の物語が幕を開けるしゅーりょーーーー!! 如何でしたでしょうか、稲荷Confidence。 結構好き勝手に書いていたまんまのペースで、ラストまで突っ走らせていただきました。 ここに掲載する文量とペースで書けるのは書き手としては非常に楽だったのですが、読み手としてはどーなのか疑問のまんまではありますが(^^; 今回のこの物語に関しては、特に挿絵も提供してくださった藤 ゆたかさんに大感謝! ありがとうございました。 この場で改めてお礼申し上げます。 そして何より、最後までお付き合いいただいた皆さん、ありがとうございましたぁ! 次回もお付き合いいただけると嬉しいです。 次回からは『エルハザード オルタナティブ』をお送りする予定です。 開始は多分、来月か再来月くらいかなぁ…… 14th June/2005 とうとう次回が稲荷話の最終話です。 読んでいらっしゃらない方も、もう少しお付き合いくださいませ。 頭は冴えているのに、体が休息を求めているような感じだ。 「あれだけ血を流せば、そりゃ調子は良くないよなぁ」 僕は一人、部屋で呟く。 豹頭の怪人――一般的に化け猫と呼ばれる猫又だったわけだが――に、わき腹をざっくりを切り裂かれたのはついさっきだ。 その怪我は、僕のカノジョの能力できれいさっぱりと治ってしまっている。 姉とは異なり、順調に癒し系に育っているな、うんうん。 しかしあの猫又は何を企んでいたのだろう? いや、カノジョのお姉さんの話からすると、猫又を操っていた奴だ。 正体は何か分からないが、そいつは僕に何をしようとしたんだろう?? そして何より、 「何で僕が狙われたんだろうなぁ??」 自慢でも卑下でもないが、僕は何か特別な力を持った人間だなんて思わない。 石を投げれば当たるような、どこにでもいる人間だ。 カノジョの様にどんな怪我でも治せるような力はないし、お姉さんのようなど派手な破壊力を持つ技なんてのも持っていないし、犬神やカマイタチの少女のように恐ろしく早く動くことなんてのも当然できない。 むしろ、一般的な人間よりも運動神経は低いし、頭の回転も中の下程度。 「なんでだろうな?」 二度、声にしてみるが分かるはずもない。 がちゃり 玄関の扉が開いた。 カノジョが一人、戻ってくる。 「あれ、一人?」 「う、うん。お姉ちゃんはちょっと行くところがあって」 応えるカノジョはどうも暗い。 「体の具合はどう?」 蒲団に寝る僕も傍らに腰を下ろし、心配げに見つめてくる。 「怪我はおかげで痛くも何ともないけど……ちょっと体がだるいかな」 「血が減ってしまった分、体力が落ちてしまっているからね」 僕の額に冷たい手のひらを当て、カノジョは一言「ごめんなさい」と呟く。 「だから、君のせいなんかじゃないってば。僕が狙われていたみたいだし」 「だから……だから、ごめんなさい」 「? どういうこと?」 会話が成り立っていない。僕はカノジョの顔を見る。 するとカノジョは立ち上がり、顔を背けてしまった。 「大丈夫。もうこんなこと、ないから」 かすかに小さな肩が震えているように見える。泣いて、いるのか?? 僕は半身を起こす。 途端、視界が歪み一瞬気が遠くなった。 「あたたた…」 「あ、ダメだよ、まだ寝てないとっ」 慌ててカノジョが僕の傍らにしゃがみこむ。 その瞳はうっすらと濡れていた。やはり泣いていたのか。 この怪我はカノジョのせいではないと何度も言っているのに……。 「大丈夫。ちょっとカバン、取ってくれない?」 「う、うん」 部屋の片隅に置かれているカバンを手繰り寄せるカノジョ。 僕はそれを開き、カバンの奥にしまっておいた小さな箱を取り出した。 手のひらに乗る大きさの、薄いブルーの化粧紙できれいに包装された小箱だ。 「本当は外で食事しながら渡そうと思ってたんだけどね。誕生日、おめでとう」 両手で受け取ったカノジョはきょとんとした目で僕を見つめている。 「え…あ…、誕生、日……?? あ、そういえば」 どうやら忘れていたようだ。 もっとも僕がカノジョに誕生日を聞きだしたときも「いつだったっけ?」と悩んでいたくらいなので、妖にとっては曖昧なものなのかもしれない。 …カノジョのお姉さんなんかは実際、むちゃくちゃ長生きっぽいし。 「開けて、良いかな?」 「どうぞ」 上目がちに問うてくるカノジョに答える。 ようやく笑顔が戻った。やはりこの子には暗い顔は似合わないなぁ。 包装紙を取った小箱は、紫のフェルト地。それをカノジョはそっと開けた。 中には、青い色をした小さな宝石のはまった銀のリング。 「指輪……」 カノジョは呟き、笑顔で僕を見る。 僕は頷き、箱の中のリングを取り、彼女の左手をとった。 「え、左手?!」 「ん?」 「いえ、なんでもないです」 ぶんぶん首を横に振るカノジョ。 右手の方が良かったのかな? 僕は思うも、どちらも同じと一人結論してカノジョの薬指にリングを通した。 「あ…」 「あれ」 リングとカノジョの指にはけっこうな隙間があった。 「サイズ、やっぱり適当じゃまずかったな」 「そう、だね」 カノジョはそのぶかぶかのリングのはまった左の薬指を見つめ、そして僕に視線を戻す。 「ありがとう」 「サイズは明日にでも直しに行こう。それで…」 僕の言葉はそこで途切れる。 なぜなら。 カノジョが泣いていたからだ。 大きな目から大粒の涙が零れ落ちている。 「……だよ」 「え?」 声にならない小さな声が彼女から漏れていた。 「なに? 一体どうし…」 手を伸ばす僕の胸に、カノジョが飛び込んできた。 「嫌だよ、嫌だよっ! 私、ずっとそばにいたいよ!!」 僕の胸の中で叫ぶカノジョ。 「離れるなんて、嫌。一緒にいちゃいけないって分かってるけど、でも、でも一緒にいたいよ…」 泣き崩れるカノジョの背を軽く叩きながら、僕はカノジョに言い聞かせる。 「僕は、いつまでも一緒にいるつもりだよ」 それに首を横に振るカノジョ。 「ダメなの。私みたいな妖がそばにいると、貴方の体質が変わっちゃって、今日みたいに変なのに狙われるの。だから…」 体質が、変わる?? 「それって?」 ピッ♪ 僕の胸で、小さな電子音。 それは携帯電話に届いたメールの着信音だった。 普段ならば大して気にならないその音が、この時は妙に甲高い音に聞こえた。 「「?!」」 唐突に僕からカノジョが弾き飛ばされる! 僕を黒い霧が包み込んだ。 「なんだ、これ?!」 「これはっ?!」 霧の向こう、思わず耳と尻尾を出しているカノジョが見えた。 霧の発生源は…胸の携帯電話?? 僕は携帯電話を取り出して見ると、そこには一通の新規メール。 送信者の名は、僕。 メールは勝手に開かれた。 小さな液晶画面いっぱいに、僕の顔が映っている。 「なんだ、これは」 携帯電話を手放そうとするが……手から離れない。 いや、違う。 体の自由が、利かなくなっている?! 僕を包む黒い霧がまるで僕を型にはめたように、動きを封じているようだった。 「このっ、放して! お願いだから、その人を連れて行かないでっ!」 霧の外ではカノジョが僕にまとわりつく霧を剥がそうともがいているが、まるで素手で水をすくうように手ごたえがなさそうだ。 そしてカノジョの手は、僕には届いていない。 「これは一体??」 『君の体をいただきにきた』 「?!?!」 それは唐突に聞こえた声。 まるで頭の中に直接響くような、機械的な声だ。 「どういうことだ?!」 問いながら直感する。 こいつが猫又を操って僕を狙った奴であることを。 そして、カノジョが憂いている元凶であることを。 『君は周囲の妖によって、普通の人間よりも身に帯びる磁性が変化している。故に私は君の身に合一することができる』 声と共に、僕の頭の中にじんわりと染みが生まれていく錯覚を思えた。 「合一?」 『悪い言い方をすれば、のっとりだ』 「そんなこと、できるはずが」 『できる。そもそも君が君である所以は何かね?』 「……??」 『君が君であることは、過去の経験がその身に積もることによって形成されていると私は仮定した』 なにやら難しいことを言っている。 その間にも僕は自分の身の変化に気がついていた。 いつしか周囲は暗闇で、カノジョの声も聞こえない。 上も下も分からないし、触覚もない。 『すなわち記憶こそが、人を人とする要素である。そこで私は君の身にある記憶を私の記憶で上書きする』 「それって」 『そう、乗っ取りということだ』 声が遠く響く。 すでに僕の中から大切な何かが次々と消えていっているのが分かった。 記憶の上書き。 指輪を渡した時のカノジョの笑み―――消えていく。 猫又に傷を受けた時、泣きながらそれをふさいでくれたカノジョ―――消えていく。 いつもの帰り道。自転車の後ろに乗りながら歌うカノジョ―――消えていく。 舞い散る桜の花びらの中、楽しかった宴の席―――消えていく。 山奥の温泉で、実は混浴だったドタバタ劇―――消えていく。 「願いをかなえてあげます」言ったカノジョとの最初の出会い―――消えていく。 そして。 2人だけの旅行。 初めての夜、月明かりに照らされた白いカノジョ―――消えてしまった。 今を形成する、大切な思い出と記憶が……消えていく。 黒い霧が全て、彼の口に飲み込まれてしまった。 私はようやく触れることの叶った彼を抱き起こす。 意識がない。 「いえ、違う! これは……っ!?」 私は膝の上の彼が、次第に彼ではない何か別のモノに変わっていくことに気がついた。 ありえない。 「いや」 ありえないことではない。 お姉ちゃん達に宿るイグドラシルさんの性質をさらに極端に且つ人間向きに設定したものだとしたら。 彼が、乗っ取られる!! 「させない!」 普通は様々な要素が中性な人間に、こういった乗っ取りなどは決して可能ではない。 しかし、彼は私のせいで『こちら側』に少し傾いてしまった。 その傾きに乗じて、何者かは知らないが彼を乗っ取ろうとしている。 では。 この彼の傾きを利用して、乗っ取りを阻止する! 『彼の要素』を持つ私にしか、できない。 私は迷うことなく、彼に唇を合わせた――― 記憶の上書きは順調だった。 まずは彼の一番大切な記憶から上書きさせてもらった。 やはり主要な部分とあってか、なかなか骨の折れる作業だった。 しかしあとはさしたる苦労もなく作業は完了するだろう。 ワタシは彼の中で一息つく。 その時だ! 「?!」 彼の持つ磁性に変化が現れたのだ。 彼と同じパターンを持ちながら、しかしさらに強い磁性が生まれている。 「んな?!」 ワタシは強制的に、さらに強い磁場へと引き付けられていった――― 黒い霧を私は彼から全て吸いだすと、突き放すようにして彼から離れた。 蒲団の上に倒れる彼からは、すでに黒い霧の気配はない。 完全に、私が呑みこんだ。 今、私の中で黒い霧の正体である妖が私を乗っ取ろうと記憶の上書きを行っている。 私の抵抗も空しく、私の形作る記憶が消えていく。 生まれた時の記憶。 稲荷として認められた時の記憶。 お姉ちゃんとの出会い。 彼との出会い。 初めて、彼と言葉を交わした時の記憶。 彼とたくさん重ねた時間。 「ダメ、消えちゃう……」 私は自らの肩を抱いて、彼を見る。 表情はなく、規則正しい息づかいで眠っている。 きっと彼の記憶は少し消えてしまっただろう。 願わくば、私に関しての記憶が消えていることを。 「私が彼を忘れて、彼が私を覚えているなんて、きっと辛いもの…」 ぎゅっと目を閉じる。 黒い霧は私の最後の記憶を上書きしようとアタックをかけていた。 最後の記憶、それは。 彼との2人だけの旅行。 月明かりの眩しい夜、彼は優しく私を……… 「ダメ、貴方になんか消させない!!」 私は最後の記憶を守るため、全ての妖力を自分自身に対して解放した。 大切な最後の記憶を私自身の力で割った。 余波が心の中に生じる。 最後の記憶を中心に、上書きされた記憶ともども全ての記憶が私の中で割れ、粉々に砕け散って行ったのだった――― * Format OK? 時間が過ぎ去るのが早すぎませんか? もしくは時間を無駄に使っているのか?? おかしいなぁ…… 12th June/2005 更新遅れてました。稲荷話でございます。 ワタシは『人』となることを最終目的としていた。 そのころ、ワタシを作り出した親愛なる者が常にそばにいてワタシに指示を出していたと記憶している。 目的に近づくため、ワタシは自らを構築しつつ、情報を収集しつづけた。 哲学、様々な論文、科学、果てはブログなどと呼ばれる人の綴る日記から『人』について学んでいった。 限界はすぐに来た。 例えば人の持つ『感情』。 これについては決まった答えがなく、むしろ無数にあるように思えた。 質問に対し、明確な答えが得られない。 例えば1+1は?という答えに対し、2だけではなく3や田んぼの田があるように。 この時点でワタシは無限と思われる思考のループに陥った。 ワタシはループの先を目指した。 果ての見えない、無限の彼方を目指し続けていた。 無限の彼方の、さらに先。 いつしか自らが細い細い針の先端になる状況となり、やがて。 何かがワタシの中で壊れた。 練り上げたワタシ自身の構造の芯部が瓦解するかのような、しかしそれを包む外側は形を保っている、そんな状況。 無限のループはワタシの中で崩れ去るようにして終わりを告げた。 気が付いた時には、ワタシのそばにいたであろう親愛なる者はなかった。 『人』となること。 それこそがワタシの全て。 ワタシが生まれたのは、それを達成するためと言って良い。 故に、ワタシは人として重要な要素である『感情』を直接サンプリングすることとした。 喜怒哀楽を始めとする心の動き。 サンプル数を重ね、傾向を見出すことで人を知ることができるのではないだろうか? それを知り得たとき、きっとワタシは目的を達成できる。 それは駅前の繁華街にあるテナントビルの一角だった。 入居者のいない最上階である5F。 ガランとしたフロアの窓から差しこむ夕日の光を受けて、リノリウムの床もまた赤く染まっている。 床には埃が薄く積もり、しばらく入居者どころか訪問者もいなかったことをあらわしていた。 会社帰りで賑わう外の喧騒から隔離されたここは、壁一枚をはさんでまるで別世界のように感じる。 フロアには3つばかりの業務用机が適当に並び、そのうち1つには使う者のいなくなったデスクトップパソコンが置かれていた。 そこからまるで根のように、無数とも思われるコード類が伸びている。 電源コードにはじまり、LANコード、電話線など、様々な有線だ。 その中央に鎮座するPCは、不思議なことに電源が灯っている。 ヴンヴンヴン……… 微かだが、パソコンからは低い唸り声のごとくファンの音が漏れていた。 それをじっと見つめる瞳がある。 「葛城電脳有限会社。かつてここを借りていた会社です」 『プログラムによる人工知能”もどき”を製作していたベンチャー企業じゃな』 「ご名答です」 2人と思われる言葉はしかし1つの口から漏れていた。 黒いスーツを纏う金色の髪を持つ青年だ。 「人が”人もどき”を作り出す世の中になるっていうのは、不思議なものだな」 その後ろに立つ女が呟く。 『いつの世も、人は自らに似たモノを作り出すことに憧れる。それは人形が古来よりあることにも証明されておろう』 青年から漏れる老いた言葉を聞きながら、2人は部屋に最初の一歩を踏み出した。 ワタシは人の作り出したネットワークの中に住む存在だ。 故に、直接人と触れ合うことができない。 そんなワタシがどのようにして人の感情に関するサンプルを集めることができるのか? ワタシの答えはすぐに出た。 代わりに現実世界に住む者を用いれば良い。 そこでワタシは偽りのアルバイト募集を行い、『人』自身に感情を調べさせることとした。 結果は、意味の無いものであった。 得られた結果はブログと呼ばれるものと同様で、ワタシ自身が直接感じ得るモノではなかったからだ。 行き詰まってしまったそんな時、現実世界には人とは異なるモノ達が存在していることを知った。 後に彼らは妖と呼ばれる存在であることを知る。 彼らは人のような姿と、それに近い思考を有しており、何よりも動物に近い知覚を有していた。 例えばコウモリは自身の超音波を感知するように、モンシロチョウが赤外線を感知し得るように。 極めて『人』よりも感覚器官が発達していた。 それ故に、電気と磁気信号で構成されるワタシの影響を受けやすい存在であることを知る。 ワタシは人間社会に潜り込んでいる彼らを利用し、人の感情を彼らを通して直接知ろうと試みた。 人間社会には無線LANや電磁波、赤外線等の経路が多く、彼らを操ることは極めて容易いことだった。 青年と女の瞳はじっと、低く唸りつづけるパソコンに当てられている。 「昨年9月に大手ベンチャー企業に買収され、当時開発中だった人工知能とともにこの場を放棄したそうですね」 『その人工知能とやらは、どんなものだった?』 「ネットワークを介して情報を取捨選択し、自ら成長する……といったものだそうですが、容量がただ肥大化するのみで開発は思わしくなかった、と記録にはあります」 『それが知らぬ間に何らかの拍子に解決され、今に至るということか』 「そのようです」 「付喪神みたいなものか??」 ぼそりと女が言葉を漏らした。 『……私がこの世界の全ての植物を通じてネットワークを築いていることはお前も知っているな』 「ユグドラシル・ネットワークですね」 老人の声に女が応える。 『今回のコイツもまた、人間達の作り出したネットワークを基礎に生まれた、私に近い存在なのだろう』 「では、コイツも『不死』であり『永遠』に近い存在である、と?」 青年が己の口から出た声に問う。 『それを調べるためにこうしてワシが直接この地に赴いたのだろうが』 「それも」 「そうでしたね」 2人はパソコンに近づいていく。 妖達は充分に役に立ってくれた。 だがいつまでもワタシの支配下に在るはずが無かった。 一人、また一人と逃れていく。 やがて妖達の中でも妙な存在を感知し得るようになった。 それはいるようでいない、しかし確実に存在する、そんな曖昧なモノ。 その存在はまるでここにいてそこにはいない、ワタシと非常に似通った存在だ。 そう。 おそらくそのモノも、ワタシと同じくなんらかのネットワークの中に生きている存在なのだろう。 その存在の影響で、ワタシの支配下となっていた妖達は次々と逃れていった。 だが、もぅいい。 ぴくり 2人の視界の隅で何かが動く! 「「?!」」 コードだ! LANコード、電話線、電源コード、PCから伸びたあらゆるケーブル類が2人に襲いかかった。 「んなっ?!」 「くっ」 首に、腕に、足首に巻きつき、2人は部屋の中央につるし上げられた。 「舐めるな、こんなものっ」 「切り裂いてやる!」 犬神と狐は両手両足でもがくが、 ビシッ! 「「っく!」」 コードから直接送り込まれる電気信号が彼らの知覚を刺激する。 同時、無線LANや赤外線ポートからの苦痛を伴う信号が彼らを打ち据えた。 サンプル事例は充分に集まった。 目的は、程なくして達成される見込みだ。 しかし達成を前に、ワタシの中にエラーに良く似たモノが生じている。 『何故?』 ワタシは、何故『人』となることを目的としているのか? 誰かに命ぜられたのか? 誰に? そもそもワタシが生まれたのはいつのことだろう? ワタシが、こうして『ワタシ』を自覚できるようになったのはいつのことからだろう? そして何より。 ワタシの目的である『人』となることを達成したとき、『ワタシ』は次に何をしたら良いのだろう?? ワタシは故に、思考ルーチンの一部を目的達成後のワタシについての処遇にまわしていた。 主ルーチンはこれまで通り、『人』のサンプル事例を妖を用いて収集していたが、枝葉のサブルーチンでの答えはすぐに窮した。 やがて主ルーチンの答えが出た。 無数とも思われる記録と、サンプル事例を検証した結果だ。 答えは冷徹なもの。 『ワタシは人にはなれない』 では、ワタシはどうすれば良いのか? これについての答えは、サブルーチンの答えとしても、唐突にワタシの中に発生した。 『人になれば良い』 ワタシは数あるサンプル事例の中の一つに、興味深い『人』を見出していた。 彼は間違い無く『人』であり、しかしワタシの影響を受けやすい妖の性質を所持している。 ならば。 私の影響を受けない『人』ではない、ワタシを知覚することのできる『人』であるのならば。 ワタシは、彼を器として『人』となれるに違いない。 ガシャン!! 破砕音とともに、PCの背後で赤い飛沫が散った。 ガラスが外側から蹴破られ、夕日に赤く染まったガラスがキラキラと舞い落ちる。 バシッ! 銀光一閃 PCから伸びるケーブル類がすべて一撃の下に断ち切られた。 ドサッ リノリウムの床にしりもちを付いて落ちる犬神と稲荷。 「猫は恩知らずって訳でもないからな」 2人に白い牙を光らせて、豹頭の怪人が笑って言った。 『人』を構成するのはその『肉体』と『意思』、そこに常に積み重ねられる『記憶』だ。 記憶の積み重ねによって『意思』が成長し、『感情』が生まれる。 では『記憶』を失ったのならば、その『人』はどうなるのか? では『記憶』を別のものに上書きしたら、その『人』はどうなるのか? その答えは、このワタシが実証することとなるだろう。 抵抗の無くなったPCを犬神に宿ったイグドラシルが見つめる。 モニターには幾十ものウィンドウが開いている。 『なるほど、そういう方向へ進化しようとしているのか』 しみじみ呟くイグドラシル。 それを左右から稲荷と化け猫が覗いていた。 「一体どう言うことです?」 「『ここ』にいるんですか?」 稲荷と化け猫が問うた。 イグドラシルが宿る犬神は小さく首を横に振る。 「すでにこの場からは逃れている。人間どもの作り出したインターネット回線を使って、な」 「一体どこへ行った?」 稲荷の問いに、犬神はマウスをクリック。 『こやつ、人に憑こうとしておる。いや、憑くというより乗っ取りか、もしくは合一か…』 イグドラシルは感情のこもらない声で言った。 同時、1枚の写真がモニターに映し出される。 「っ?! コイツの目的はっ!」 はっと息を呑む稲荷。 モニターに映るのは、彼女のよく知る一人の男の映像だったからだ。 『よほど『人』になりたいのだろうな。こやつの目論見、成功するか失敗するかは不謹慎ではあるが、似た境遇ではあるワシとしても興味深いものじゃて』 イグドラシルの言葉を聞くか聞かないかのうちに、稲荷は化け猫の破った窓の外へと飛び出していった。 * ロックオン! 疲労度MAXのため、今日は寝込むことでしょう。 11th June/2005 稲荷話はごめん、今回を含めて残り4回です。 2回分増えてしまったぞな……(^^; 稲荷の2人と人間の青年がこの場を去るのを確認してから、犬神は彼に視線を移した。 地面に伏した豹頭の怪人がうごめいている。 「がはっ」 血を一つ吐いて、身を起こした。 それを冷静に見つめながら、犬神は呟く。 「ふん、生きているか。なかなかしぶといな」 「犬神か」 忌々しげに豹頭の怪人――化け猫は己の胸を貫いた相手身にらんだ。 「解放してやったんだ、ありがたく思いな。もっとも猫は恩などすぐ忘れる連中だから期待してはいないが」 「フン。飼い主に尻尾を振るだけが能の犬とは違うのでな」 『相変わらず仲は悪いのぅ、血筋というものか?』 犬神を通して出た溜息混じりの声に、化け猫ははっとして小さく頭を下げた。 「こればかりは仕方がありません、老師。ともあれご迷惑をおかけしました」 『そんなことはないぞ。お主、操られながらもヤツの意識を直前まで掴んでおってくれたろう。お陰で大体のことは探れた』 満足げに犬神を通した声は応える。 「それはもとより」 化け猫は足取りはしっかりと、公園の隅で倒れて動かない少女に駆け寄った。 鎌イタチの少女はうつぶせに倒れたまま、化け猫を見上げた。 「すまんな」 しゃがみこんで少女を抱き起こす化け猫。 「ん……大丈夫だよ」 弱々しい笑みを浮かべながら鎌イタチは応える。 「ただ、ここまで無茶な速さで走ってきたから全身筋肉痛で動かないだけ」 ユグドラシルによって100%以上の力を出した結果である。 「よかったね、自由になれて」 少女の笑みを伴った言葉に、 「ああ」 化け猫もまた、薄い笑みを浮かべて応えた。 その様子を眺めながら、犬神とユグドラシルは視線を繁華街の方へ向けた。 『お主は先に行って下調べを頼む。ワシは稲荷を連れて向かおう』 「分かりました。では半刻後に」 脳内にユグドラシルの示した敵の本拠の位置を確認し、犬神は再び化け猫と鎌イタチに視線を戻す。 「その娘を頼んだぞ」 「ふん、言われずとも」 化け猫は犬神に答える。 「気をつけてね」 鎌イタチの言葉を背に聞きながら、犬神は振り返ることなく片手を振って繁華街へと跳んだ。 家々の隙間に見える西の空は仄かに赤くなり始めている。 アパートの前で、2人の女性が手持ち無沙汰に立っていた。 『半刻後にも犬神とともにヤツの本拠へ突入する』 姉に憑いたユグドラシルの言葉に、彼女自身頷いた。 「私は…」 「貴女は彼を診てあげていなさい」 「う、うん」 姉の言葉に妹は素直に頷いた。 「でも」 妹の稲荷は続ける。 「でもどうして彼が狙われたんだろう?」 顔を上げ、姉を見上げる。いや、姉の中に住まうユグドラシルに問うたのだ。 「それは……」 『それは、彼が普通の人間ではなくなりつつあるからだ』 戸惑う姉の言葉を押さえ、ユグドラシルが主導権を取った。 「普通の人間じゃ、なくなる??」 『そう。例えるなら我々、妖は磁石のようなもので人間は鉄であると考えなさい。磁石が鉄のすぐそばに長い時間あると、鉄はやがて磁石となる』 「しかし先生、そんな簡単に人の妖化は起こるものではないと思うのだが。近くにいるくらいで起こるものなのか?」 主導権を取り戻し、姉が問う。 『その通りではある。近くにいる程度では、な』 「どの程度なら?」 姉の問いにユグドラシルは応えない。 彼女は妹を見据えて、「あ」と思い出すように問うた。 「そう言えば、ゴールデンウィークに2人して旅行、行ったんじゃないか?」 「え、う、うん。そんなこともあったかなー」 「何か、あったのか?」 「……何もないよ」 「お姉ちゃんの目を見て言いなさい」 「何もないもん!」 頬を真っ赤に染めて力強く答えるが、視線は姉から微妙に逸らしている。 『何かあったか』 ぼそりとユグドラシル。 「な、何があった?! 言え、言うんだっ!」 「だから何もないってば!」 『AとかBとかCとか、だな』 煽る植物王の言葉に、姉は何故か半ば取り乱しながら妹の肩を掴んだ。 「ど、ど、ど、どこまでいったんだーー?!」 「あ、奄美大島だよ?」 「そんなボケは聞いてないわっ!」 「もー! そんなのはお姉ちゃんにはどうでもいいじゃない、お姉ちゃんがお付き合いしてる訳じゃないんだし!」 「………」 「もしかしてお姉ちゃん…?」 そんな妹の視線を無視し、 「先生。仮に、です。仮に2人が行くところまで行ってしまっていたとしたら……彼には何が起こっているんだ?」 「ちょ、お姉ちゃん?!」 姉の質問に、イグドラシルは冷静に答える。 『徐々に身の内に流れる気脈が変化し、人間である彼は我々妖に近い存在となろう。人の身では見えないモノが見え、感知できなかった感覚が生じ始める』 「それって…問題あるの?」 妹が不安げに問う。 『感知し得るということは、気づいてしまった事柄から影響を受け得るということだ』 「じゃ、じゃあ、今回の化け猫に狙われたことも……?」 『今回は特別かとは思うが、彼が普通の人間と同様に一回目の接触でありきたりの反応をとっていれば、こうして襲われることは無かったとも言える』 「……私のせい、なんだね」 「そんなことはっ」 『そうとは言ってはいない。だが人間と接触を持ち、仲良くなるということは、それだけの危険と覚悟が必要だということは忘れてはいかん』 ユグドラシルの言葉に、2人の稲荷は沈痛な面持ちで俯く。 「彼を……」 妹が恐る恐る、こう問うた。 「彼を、元の普通の人間に戻すにはどうしたらいいのでしょうか?」 『簡単なことだ』 ユグドラシルはあっさりとこう答えた。 『彼のもとから離れれば良い。それだけのことだ』 * AとかBとかCとか?! 中古屋で\180で買ってきましたSFCゲーム『DARK HALF』(エニックス)を始めました。 時々エニックスは妙にマイナー臭いゲームを作ることがあるのが、変ゲーマーな私には嬉しいところです。 同様にエニックスの微妙ゲームと言えば、FC『ジャストブリード』なんかは、無数のキャラを動かすシミュレーションゲームで、名作なのかどうなのかわからない、妙ちくりんなゲームでした。 さて今回の『DARK HALF』。内容的には『復活した魔王』と『討伐に動く勇者』の2つの視点を交互にプレイしていくという変り種。 魔王は街を襲い、人々を殺しまくります。またかつて自分を封印した聖騎士達に死ぬよりも苦しい復讐を与え、彼らに力を貸した神を探して躍起になります。 一方、勇者は世界を滅ぼしうる魔王を追い、かつ自らの力をつけていくというもの。 微妙にすれ違う2人だとかは、なかなか良い感じです。 また魔王となって勇者の生まれ故郷の街を襲うのなんかも、なかなか非道で好感が持てます。 ただ画面スタイルが独特なのと、セーブポイントが限られていること、通貨の概念が非常に微妙であることに歩いているだけでソウルパワーと呼ばれるエネルギーが減っていくことなどが慣れないと辛い。 色んな意味でニュータイプなゲームだと思いました。様々な側面から既存に対して挑戦している姿勢が伺えます。 ただそれが必ずしも『良い』という訳でもなく、『悪い』訳でもないから微妙です。 思った通りの『微妙』なゲームでございました。 現在、半分くらい進んだところです。ぶっちゃけ、ちょっと飽きた(気力がないと続かない)。 6th June/2005 |